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写真:三菱自動車
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三菱自動車は2021年12月、中型SUV(多目的スポーツ車)の新型「アウトランダーPHEV」を発売した。三菱車として初めて、日仏3社連合(アライアンス)の共通プラットフォーム「CMF(Common Module Family)-C/D」を適用した。パワートレーンを刷新し、走りの性能を進化させたほか、モーター走行による航続距離を延長した。またボディー骨格にホットスタンプ(高張力鋼板の熱間プレス材)を適用したことなどで、衝突安全性能を強化した。先進運転支援システム(ADAS)も刷新し、日産自動車の最新システムを採用して予防安全性能を高めた。

 三菱自動車は中型SUVの新型「アウトランダー」のプラグインハイブリッド車(PHEV)モデル(以下、新型車)で、走りの性能を大きく進化させた(図1)。その進化を支えるものの1つが、一新したパワートレーンである。前部に最高出力85kW(先代車に比べて25kW増)、最大トルク255N・m(同118N・m増)のモーター、後部に最高出力100kW(同30kW増)、最大トルク195N・m(先代車と同じ)のモーターを搭載し、後輪の駆動力をより重視した構成とした(図2)。

図1 新型SUV「アウトランダー」のPHEV
図1 新型SUV「アウトランダー」のPHEV
日本ではPHEVモデルのみの設定となり、21年12月16日に発売した。(撮影:日経Automotive)
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図2 一新した電動パワートレーン
図2 一新した電動パワートレーン
前後のモーターで高出力化を図り、電池は高電圧化に加えて、容量を約45%増やした。(画像:三菱自動車)
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 それにより、前後の駆動力配分の制御可能範囲を広げるとともに、全開でも後輪寄りの駆動を可能にして、前輪を操舵(そうだ)のためにより使えるようにした(より後部寄りの駆動力配分になる「TARMAC」をドライブモードに選んだ場合)。

 さらに、先代車では前部のみの制御に限定していた「アクティブヨーコントロール(AYC)」を後部にも適用した。AYCは内輪側にブレーキをかけることで旋回性や安定性を高めるものだが、後部にも適用することで、「タイヤの性能をより使い切ることが可能になった」(三菱自の技術者)という。油圧ブレーキの油圧制御の応答性が高まったことで、後部への適用が可能になったと同技術者は説明する。

 同技術者によれば、これらによって雪道での30km/hからの全開加速に対して、アクセルを踏み込んだときの応答性が高まり、ふらつきも低減したという。

電池は高電圧化し容量を約45%増やす

 パワートレーンの一新は、加速性能の向上やモーター走行による航続距離(EV走行距離)の延長も可能にした。新型車は日本ではPHEVのみの設定だが、米国や豪州などではガソリン車も用意する。PHEVはガソリン車より約300kg重くなるが、その質量増を補って余りあるモーター出力(合計185kW)を持たせることで、加速性能を高めた。

 モーターの出力アップに向けては、次のような取り組みを実施した。前部モーターでは、高出力領域においてモーターに印加する電圧を、電池の総電圧である350Vから650Vに昇圧するように変更した。加えて、モーターを駆動するパワー素子の電流を増大させた。パワー素子にはSi(ケイ素)のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を使う。後部モーターでは、固定子の巻線に同社で初めて角型断面のものを採用して巻線の占積率を高めたという。

 EV走行距離(WLTCモード、以下同じ)は、装着するタイヤのサイズによって異なるが、18インチタイヤの場合(Mグレード)で87km、20インチタイヤの場合(P、Gグレード)で83kmと、先代車の57.6kmから延長した。電池の搭載容量を先代車の13.8kWhから20kWhに増やし、EV走行時の電費を改善することで実現した。

 新型車に採用した電池は、フランスRenault(ルノー)・日産自動車・三菱自のアライアンスで共用化する方針のリチウムイオン電池である。正極にNMC(ニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム)を使ったものだ。1セル当たりの容量を増やすとともに、セル数を従来の80から96に増やして容量を高めた。三菱自の公表値から計算すると、1セル当たりの容量は先代車の172.5Wh(46Ah)から208.3Wh(57.1Ah)に増大している。

 セル数の増大は高出力化にも寄与した。電池の総電圧を先代車の300Vから350Vに引き上げ、昇圧を適用しない運転領域においてもモーターの駆動電圧を高め、高出力化に生かした。