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成形と溶接の量産技術を開発

 先代車のボディー骨格を見ると、センターピラーやルーフ・サイド・レールなどに、440~590MPa級の冷間プレス材を使う。ボディー骨格全体に占める高張力鋼板の使用比率(質量比)も、440~590MPa級が最も多かった(図5)。

図5 先代車のボディー骨格
図5 先代車のボディー骨格
440~590MPa級の高張力鋼板の使用比率が最も多い。三菱自動車の資料を基に日経Automotiveが作成。
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 これに対して新型車は、1.5GPa級ホットスタンプをボディー骨格全体の14%に使ったほか、780MPa級~1.2GPa級冷間プレス材の使用比率を26%まで高めた。440~590MPa級の使用比率は24%まで減らした。

 ただ、1.5GPa級ホットスタンプの適用では他社が先行している。例えばトヨタ自動車やホンダ、日産、マツダは、小型車のボディー骨格にも1.5GPa級ホットスタンプを使う。これに対して三菱自は今回の新型車で初めて適用し、他社に追い付いた。

 ホットスタンプを適用するため三菱自は、成形とスポット溶接に関する量産技術を開発した。成形の面では、熱間プレス時の成形条件を最適化して、求める強度の部品を高い寸法精度で安定して造る必要がある。同社生産技術本部で板金樹脂生産技術部(板金技術)の中本昌平氏は、「ホットスタンプの成形技術を持つサプライヤーからの情報も参考にしながら、量産技術を自社開発した」という。

 スポット溶接については、1.5GPa級ホットスタンプは980MPa級冷間プレス材などよりも溶接条件が厳しい。例えば溶接時の加熱で、接合部周辺の強度が下がる課題がある。また、溶接電流が大きくなるホットスタンプ同士のスポット溶接では、スパッタ(溶融部から溶けた鉄が飛散すること)が発生しやすい。スパッタ量が増えると、接合部の強度が下がる問題もある。

 三菱自生産技術本部で溶接組立生産技術部(先行技術)のマネージャーを務める曲田吉史氏は、「新型車のボディー骨格ではセンターピラーの板厚は1.0mm、フロントピラーの板厚は1.2mmなど、1.0~1.4mmの板厚のホットスタンプを使っている」と述べる。こうした板厚が異なるホットスタンプ同士のスポット溶接であっても、接合部の品質を安定して確保できる量産技術を自社開発した。

電池パックのフレームを骨格の一部に

 また新型車のPHEVは三菱車として初めて、日仏3社連合共通のプラットフォーム(PF)「CMF-C/D」を適用した。最新の同PFはエンジン車だけでなく、PHEVなどの電動車にも対応できるようになっている。時実氏は、「電池パックの搭載に対応するため、CMF-C/D の一部を改良した」と話す。

 新型車の電池パックは、前席から後席足元の床下に搭載する。側面衝突時の衝撃から守るため、電池パックのフレームをボディー骨格の一部として使った。

 具体的には、電池パック自体を鋼板製のフレームで囲み、このフレームと骨格本体のフレームをボルトで締結した。また、2本のフロア・クロス・メンバーの間に、補強用のフレームを1本追加した。

 PF以外では、ボディー骨格を環状構造にした。先代車は中央と後部の骨格は環状構造だったが、前部の骨格は環状構造になっていなかった。新型車では前部の骨格も環状構造にして、骨格自体の強度を高めた注2)

注2)前部と中央、後部の骨格を環状構造にすると、ボディー剛性が向上する利点もある。

 環状構造の前部の骨格は、エンジンルーム内のサスペンションメンバーからスプリングハウス(サスペンション装置を収容する部品)、カウルトップをつなぐ部分と、フロントウインドーのシールド周りの2つである(図6)。

図6 環状構造を採用した新型車のボディー骨格
図6 環状構造を採用した新型車のボディー骨格
白い破線で囲んだ部分が環状構造になっている。新型車では前部の骨格も環状構造にした。三菱自動車の資料を基に日経Automotiveが作成。
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 中央の骨格はセンターピラーからルーフ・クロス・メンバー、フロア・クロス・メンバーをつなぐ部分、後部の骨格は後部ドア後方のフロア・クロス・メンバーからリアピラー、ルーフ・クロス・メンバーをつなぐ部分が環状構造になっている。