航続距離の延長や加速性能の改善、最高速度の向上などを目的に、電気自動車(EV)向け変速機の開発が進む。一方で、「モーター駆動のEVに変速機は不要」との意見もある。部品メーカーの開発現場を中心に取材したところ、EVの多様化を支える重要部品であることが分かってきた。
2021年11月上旬のこと。ドイツBosch(ボッシュ)は栃木県那須塩原市に構えるテストコースに、自動車メーカーの電気自動車(EV)技術者を招き入れた。EVが抱える課題を解決する技術を盛り込んだ試作車に乗せるためだ。
技術者が体験したのは、「CVT4EV」と名付けたEV向けの無段変速機(CVT)である(図1、2)。Boschは「25年までに量産したい」(ボッシュパワートレインソリューション事業部トランスミッション事業室カスタマーエンジニアリングベルト統括プロジェクト1Gマネージャーの鎗田大輔氏)とする。
EV向け変速機の役割は、効率の良い領域でモーターを駆動できるようにして航続距離を延長すること。さらに、駆動トルクを高めて走行性能を改善していくことである。
アイシンやドイツZFといった変速機大手も、EV向け変速機の開発に注力する。ジヤトコは「20年代前半の量産を目指す。既に試作機を搭載した車両で性能を評価中」(同社イノベーション技術開発部部長の前田誠氏)だ。
機械部品メーカーも熱い視線を送る。例えば日本精工(NSK)はEV向け2段変速機のコンセプトを開発済みで、「早ければ24年には(同コンセプトに搭載したデバイスを)製品化できる」(同社執行役常務 自動車技術総合開発センター所長 自動車軸受技術センター所長の近江勇人氏)と読む。