スズキは2021年12月、軽自動車「アルト」の全面改良車を発売した。最低価格が100万円を切る小さなクルマでありながら、高強度の高張力鋼板をボディー骨格に多用することなどで、衝突安全性能を強化した。先進運転支援システム(ADAS)では主要センサーを小型ステレオカメラに変更し、主要機能である自動ブレーキを夜間歩行者に対応させた。パワートレーンでは簡易ハイブリッド車(MHEV)を同車として初設定し、軽自動車トップとなる低燃費を実現した。
スズキが2021年12月に発売した新型軽自動車「アルト」(以下、新型車)は、車内空間を広くするため先代車に比べて全高を50mm高くしたほか、フロントピラーを立てて、ワゴンタイプのような外観に変えた(図1)。その結果、先代車のボディー骨格のままでは、最新の衝突安全基準に対応するのが難しくなった。新型車ではボディー骨格に改良を加え、この課題を解決した。
1.2GPa級高張力鋼板の使用量増やす
14年12月に発売した先代車のボディー骨格では、側面衝突時に乗員室を変形させないために、センターピラーやサイドシルなどに、引っ張り強さが980MPa級の高張力鋼板(冷間プレス材、以下同じ)を使っていた。
前面衝突時の衝撃荷重は、フロントピラーからルーフ・サイド・レールやサイドシルなどを通じて後部に逃がす。これらの部位も、980MPa級の高張力鋼板だった。これに対して新型車では、センターピラー(アウター材)とフロントピラー(インナー材)に、1.2GPa級の高張力鋼板を適用した(図2)。
スズキの軽自動車では、現行「ワゴンR」もセンターピラーに1.2GPa級の高張力鋼板を使うが、フロントピラーは980MPa級である(図3)。今回の新型車は最低価格(消費税込み、以下同じ)を100万円以下に抑えながら、同価格が100万円を上回るワゴンRよりも1.2GPa級の使用部位を増やした注1)。6つのSRSエアバッグも全車に標準搭載した。
新型車でセンターピラーの強度を高めたのは、側面衝突に対する安全性を強化するためである。日本の側面衝突基準では先代車の発売後に、試験車両の運転席側の側面にぶつけるバリアー(移動式台車)の速度が速く、質量が重くなり、衝撃荷重が従来よりも大きくなった。これに対応するため新型車では、センターピラーの強度を980MPa級から1.2GPa級に変えた。