全3929文字
PR

フレームを追加してポール衝突対応

 側面衝突基準の中で条件が厳しい「ポール衝突試験」注2)への対応では、左右のセンターピラーとつながるフロアのフレーム(フロア・クロス・メンバー)を追加した。同フレームは、980MPa級の高張力鋼板である。スズキ四輪ボディー設計部第一設計課課長代理の河田武志氏は、「この追加したフレームで、主にポール衝突の衝撃荷重を受け止めるようにした」と説明する。

注2)日本のポール衝突試験は、18年6月15日以降に発売した新型車から適用された。車速32km/h(軽自動車など全幅が1500mm以下の車両の場合は同26km/h)の台車に試験車両を載せて、電柱を模擬した直径254mmのポールに対して、75度の角度で運転席側の側面を衝突させる。(1)運転席に乗せたダミー人形への衝撃が一定値以下であること、(2)ドアが外れないこと、(3)燃料漏れが一定量以下であること─を義務付けている。

 側面衝突の衝撃荷重は、ドアの補強材でも受け止めるようにした。前後のドアにはそれぞれ3本の補強材を入れており、最も上の補強材は590MPa級、最も下の管状の補強材は1.8GPa級である注3)

注3)1.8GPa級の管状の補強材は冷間プレス材ではない。

 一方、フロントピラーの強度を高めたのは、前面衝突に対する安全性を強化するためだ。前述したように、新型車のフロントピラーは先代車よりも立っている。これにより車内空間は広くできたが、前面衝突への対応については新たな対策が必要になった。

フロントピラーの強度も高める

 具体的には、フロントピラーを立てたことで、同ピラーとルーフ・サイド・レールなどの接合部の屈曲が大きくなり、前面衝突の衝撃荷重を効率的に後部に逃がすのが難しくなった。最悪の場合、フロントピラーが変形する恐れがある。そこで、フロントピラーの強度を先代車の980MPa級から1.2GPa級に変更して対応した(図4)。

図4 先代「アルト」のボディー骨格
図4 先代「アルト」のボディー骨格
新型車に比べて、フロントピラーの傾きがなだらかになっている。センターピラーやフロントピラーなど図の紫の部分には、980MPa級の高張力鋼板を使っていた。スズキの資料を基に日経Automotiveが作成。
[画像のクリックで拡大表示]

 ボディー骨格を環状構造にしたことも、骨格自体の強度向上に寄与した。環状構造になっているのは、(1)前述したセンターピラーとフロア・クロス・メンバー、ルーフ・クロス・メンバーをつなぐ骨格、(2)フロントピラーやルーフ・サイド・レール、サイドシルなどをつなぐ側面の骨格、(3)後部ドア周りの骨格である。

 こうした改良によって、ボディー骨格の質量は先代車より重くなった。ただ、「高強度の高張力鋼板の使用比率を増やすことで、質量の増加をできるだけ抑えた」と河田氏は話す。