日経クロステックと日経BP総研のプロジェクトチームは、トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を独自に入手して分解調査した(図1)。日経Automotive2022年3月号の特集「トヨタ『ミライ』分解」で、自動運転と電動化という2大トレンドに対応するための工夫を詳報した。だが、分解で明らかになった事実は他にもある。本コラムでは、数回にわたってミライ分解の調査結果をお伝えしていく。第1弾となる今回は燃料電池(FC)モジュールである。
「大型トラックのエンジンみたいだ」
新型ミライのFCスタックを含む前部サブフレームが車両から降ろされた瞬間、分解に立ち会った全員がその巨大さに息をのんだ注1)。姿も異様だ(図2)。巨大なパイプがツタのように絡みつき、エンジン部品の機械的な感じはなくむしろ、軟体動物のような装いである。これまでの自動車の部品とは、明らかに雰囲気が異なる。
ここからFCスタックを取り出すため、周辺にあるパイプや補器類を外していく作業に取りかかった。その結果、分かってきたのは次のような構造だ。
FCスタック本体は、アルミニウム(Al)合金製の土台(ベースプレート)の上に搭載されており、このベースプレートの上のみならず、裏側にもFCスタックを動作させるための補器類が所狭しと取り付けられている(図3)。このベースプレートは、前部サブフレームとの接合部としての役割も担う。前部サブフレームとベースプレートは、ダンパーを介して、ボルト締結されていた(図4)。
ベースプレートで一体化されたブロックには、FCスタックのみならず、それを動作させるために必要な補器類が、過不足なく載っていた。製造過程において、この塊ごと動作チェックすることで、作業を簡略化してコスト低減を図っているとみられる。
補器類やFCスタックとつながるパイプを外すと、FCスタック部が現れた(図5)。この状態の外観やサイズ感は、むしろ乗用車のエンジンに近い。つまり、FCシステムは、FCを動作させるための補器類やパイプによって巨大化していたのだ。