トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」の分解レポートの第4回は、高度運転支援技術「Advanced Drive(アドバンストドライブ)」(以下、AD)向けのセンサーを調査した。前方監視用のLiDAR(レーザーレーダー)と望遠カメラを分解し、内部の機構を確認していく(図1)。
渋滞末尾を模したダミー車両に、テストコースを走る「レクサスLS」が勢いよく突っ込んでいく。その車速は約136km/hを記録。衝突を覚悟した次の瞬間、「キーッ」という甲高いスキール音を鳴らして急ブレーキがかかる。レクサスLSの鼻先は、ダミー車両には触れていなかった─。
これは、レクサスLSに搭載したADの実力を誇示するため、トヨタ自動車が作成した映像のワンシーンである。
トヨタが量販車に搭載している先進運転支援システム(ADAS)「Toyota Safety Sense(TSS)」では、「静止車両に対する自動ブレーキで衝突を回避できるのは約60km/hまで」(同社の自動運転技術者)である。道路状況や天候などの環境に左右されるものの、ADは「従来のTSSよりも2倍以上のスピードで走っていても事故を防げる」(同技術者)という。
ここで気になるのが、車速の「136」という数字だ。分解した当時、トヨタはADを日本市場向けのレクサスLSとミライにしか搭載していなかった。そして日本の道路の最高速度は120km/h。約136km/hへの対応は過剰で、キリが悪いようにも思える。だが、この数字には意味がある。
Advanced Driveを米国にも投入
単位をkmからマイルに変換すると分かる。136km/hは約85マイル/hとなる。そしてこの85マイル/hは、米国における道路の最高速度なのだ。正確には、米国は州や地域によって最高速度の設定が異なるが、最も高いもので85マイル/hとされている。
トヨタは、AD搭載車の米国市場への投入を2022年3月に始めた。ADに必要な高精度地図も構築した。その距離は約23万8000kmに及ぶ。日本で整備した高精度地図は約3万km分で、桁違いに長い。
自動ブレーキ性能の大幅向上や地図の構築といった下準備を経て、トヨタはADの世界展開を開始する。
従来のTSSから飛躍的に緊急自動ブレーキの性能を高められた大きな要因が、前方監視用センサーの刷新である。新開発したLiDARと望遠カメラを採用した。いずれも、200m以上先の車両の存在を把握できる。従来システムで使う単眼カメラやステレオカメラの検知距離は100mほどだった。