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液系のリチウムイオン電池は限界に

 2050年のカーボンニュートラル実現、そしてその通過点として30年に達成しなければならない技術レベルを考えると、問題になるのはEVだ。現行の液系のリチウムイオン電池は質量が重く、コスト低減にも限界がある。やはり全固体電池をいかに早く実用化し、EVがカバーできるクルマの領域を広げていくことが重要だ。

 PHEVに取り組む前提には、「EVの普及には相当な時間がかかる」という想定がある。電池のエネルギー密度向上やコスト低減が遅いので車両に搭載する電池をEVの半分にして、足りない航続距離をエンジンで補おうという発想だ。

 FCVも研究開発は継続している。私の立場で技術開発をきちんとやり、製品開発に移行できるような準備はしておく。ただ、やはり水素を作り出すのにCO2を排出するし、燃料電池(FC)スタックをはじめ技術課題が残る。水素ステーションのインフラを整備するのにも時間がかかると思う。

 だから、繰り返しになるが、日産として注力するパワートレーンはe-POWERとEV(図12)。将来的には、EVがかなり主流を占めていくだろうと考えている。

図1 日産の新型EV「アリア」
図1 日産の新型EV「アリア」
日本では21年冬から納車を開始する予定。(出所:日産自動車)
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図2 日産の新型SUV「Qashqai(キャシュカイ)」
図2 日産の新型SUV「Qashqai(キャシュカイ)」
22年にe-POWER搭載車を欧州市場に投入する。(出所:日産自動車)
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EVが主流になるという日産の読みは、自動車メーカー、とりわけ日本勢の中で異質だ。例えばトヨタは、50年時点でPHEVがパワートレーンの多くを占めるというシナリオを描くようだ。
 一方で共通するのは、モーターなど電動部品のない純粋なガソリンエンジン車はなくなるという点だ。背景にあるのは、カーボンニュートラルの実現に向けて「脱エンジン車」を宣言する国や地域が増えてきたこと。英国やフランス、米カリフォルニア州、日本では東京都もディーゼル車とガソリン車の新車販売を禁止する方針を打ち出した。

 カーボンニュートラルは、自動車業界としても推進していかなければいけない当然の道筋だ。その途中で、いわゆる「ICE ban」といわれている、ガソリン(やディーゼル)のエンジン(Internal Combustion Engine、ICE)を搭載したクルマがなくなるのも、当然の道筋かと思う。日産は、社長の内田誠から発表があったように、30年代早期に主要市場の日本、中国、米国、欧州に投入する新型車を100%電動車両にする計画である。

 電動化の内訳としては、25年ごろはe-POWERの方が多いだろう。30年くらいがe-POWERとEVの比率で結構いいバランスかもしれない。その先は必然的にEVの比率がどんどん増えていき、どこかでe-POWERもなくなる。この時期はまだ想定していないが、e-POWERがなくなった時が当社にとっての脱エンジンとなるわけだ。

50年のカーボンニュートラル実現という大目標の前に、自動車メーカーは環境規制への対応を迫られる。例えば欧州では、30年のCO2排出量を21年比で37.5%削減するという厳しい燃費規制が待ち構えている。

 規制対応のために仕事をするという考えではない。我々は規制ではなくて、30年をカーボンニュートラルへの通過点として、電動車両の比率を高めていく。当社が描いているロードマップに乗せておけば、30年の欧州規制は余裕で対応できるだろう。

 ただし、PHEVが必要になる場面もある。中国の「NEV(New Energy Vehicle)規制」や米国の「ZEV(Zero Emission Vehicle)規制」だ。e-POWERはこれらの規制の対象になっていない。中国のNEV規制ではe-POWERを販売した台数に応じて、販売を義務付けられるNEVの台数を減らせるが、NEVそのものの定義には入っていない。

 国がそういう定義をしているときに、事業としての判断でPHEVを用意することになる。当社としては、アライアンスの協業という形で、三菱自動車のPHEVを使うというロードマップを描いている(図3)。

図3 三菱自動車のプラグイン・ハイブリッド・システム
図3 三菱自動車のプラグイン・ハイブリッド・システム
ガソリンエンジンと前後の車軸に1個ずつ搭載するモーター、リチウムイオン電池などで構成する。(出所:三菱自動車)
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e-POWERがその役割を終えるためには、EVが抱える電池の課題を克服しなければならない。エネルギー密度向上には限界が見え始め、価格はEV普及の目安とされる100ドル/kWhから大きくかけ離れている。

 日産は「リーフ」を量産し、「アリア」を発表した。つまり、Cセグメントのクロスオーバー車までのEV技術は用意できた。次はDセグメントとなるが、ここに大きな壁がある。大型のEVだと、現在の液系のリチウム音電池だと重すぎる。エネルギー密度が不十分だ。

 だからこそ、全固体電池が必要になる。質量エネルギー密度で500Wh/kgまでいけば、Dセグメント車やさらに大きいトラックまでのEV化が可能になる。全固体電池であれば500Wh/kgの達成は可能だ。

 27~28年には(全固体電池を搭載したEVを)世に出せるように、社内で技術ロードマップを作っている。実現に向けてどのような技術が必要か。これはEVをリードする会社が、きちんと考えないといけない。自然にぶくぶく湧いてくるものではないので、材料技術だけでなく製造技術を含めて積極的に開発を進めていく。誰とは言えないが、パートナーと共にやっていく。コストとしては、100ドル/kWhよりも下げることが目標になる。これを達成しないと全固体電池の普及は難しい。