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 パナソニックエナジー 
テスラ先回りで「省ニッケル」に

電気自動車(EV)を年間2000万台製造するという壮大な計画を掲げる米Tesla(テスラ)。目標達成には10TWhを超える規模の電池が必要とされる。パナソニックエナジーはどう向き合うか。同社CTO(最高技術責任者)を務める副社長の渡辺庄一郎氏に、テスラ向け新型「4680」や電池開発の方向性を聞いた。

パナソニックエナジーCTOの渡辺庄一郎氏
パナソニックエナジーCTOの渡辺庄一郎氏
(写真:パナソニックエナジー)
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テスラ向けでは、新型リチウムイオン電池である「4680」(直径46mm×長さ80mmの円筒形電池)の量産を2023年度中に開始する予定だ。円筒形にこだわる理由を確認したい。かつては角型やラミネート(パウチ)型などと比べて安価な印象があったが、今はそれほど差がないように思える。

 電池コストの多くは材料が占めるので、ある規模を超えると電池の形状が異なっても価格はさほど変わらない。円筒形の利点は開発スピードだ。

 電池は大型にするステップにそれなりの時間がかかる。小さな電池を開発した後に大型化するため、最終製品を仕上げるまでに(安全性の検証や劣化、品質のばらつきなど)多くの手間と時間が必要になる。

 一方の円筒形は、電池が小さいのでいろいろと勝負しやすい。(大型化するステップを省けるため、その浮いた時間で)新しい材料の候補を多く試せるし、スピード感のある評価ができるので最終製品に求められる性能や品質を出しやすい。実際、テスラに供給している電池も、形状こそ同じだが中身はどんどん変更している。

テスラ向けの現行電池「2170」(直径21mm×長さ70mmの円筒形電池)ではどのような改良を実施しているのか。

 現在量産しているのは第3世代品だ。2170の供給を始めたのは17年で、2年に1回はバージョンアップしている。世代交代するたびに、エネルギー密度を5%以上高めている。

 現行品の体積エネルギー密度は764Wh/Lに達する。第4世代品も開発を進めており、エネルギー密度を6~7%向上させる計画だ。

 エネルギー密度を上げるために30年以上取り組んできたのが、正極材に含まれるコバルト(Co)を減らし、その代わりにニッケル(Ni)を増やすことである。

正極材に占めるNiの比率はどれくらいか。競合他社が量産する電池の多くは、Ni比率が60~80%ほどだ。

 2006年にNi比率が85%の電池を量産し、現在は同90%以上である。(Coの代わりにNiの比率を高めた)「ハイNi」正極では、当社は競合のずっと先を行っている。

Ni比率を高める先に、Coを使わない「Coフリー」電池がある。4680で実現するのか。

 4680をCoフリーにするかどうかは顧客次第だ。Coの調達には(紛争が続くコンゴ民主共和国が主要な産出国という)コンプライアンス的な課題がある。当社はきちんとしたルートでCoを調達しているが、リスクを抱えがちな材料の使用をゼロにするのは安心材料になる。

 Coは材料価格の高騰も指摘されているが、乱高下してもそれほど影響がないというのが実際のところだ。当社のテスラ向け電池は既に、Co比率が5%以下と小さい。だから、Co価格の変動は大きなリスクではない。

Coフリー電池の量産時期は。

 2~3年以内を予定している。開発自体は、21年3月までにほぼ完了した。詳細は非公表だが、文字通りCoが全く入っていないリチウムイオン電池だ。

Coフリーを含め、パナソニックの電池開発はNi比率を高めることに注力し続けてきた。だが、ここへきてNi使用量の半減を目指す「省Ni」という新しい方向性を打ち出した。約30年間続けてきた方針を転換した理由を聞きたい。

 民生用のリチウムイオン電池だけなら取り組む必要はなかっただろう。だが、EV市場の広がりやテスラが掲げる成長の規模感を考えるとNi使用量を減らすことが重要な命題になると判断した。

Niをめぐっては、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに価格が急騰したことも話題になった。資源の偏在や価格高騰を見据えた電池開発がより重要になってきた。

 確かにNiは高くなってきた。それに、テスラはTWh規模の電池を確保する方針で、その成長についていく際にNiの調達が大変になってくる。電池生産量の拡大を考えると、Ni使用量を減らしていかないといけない。TWh規模になると、サプライチェーンを含めて従来とは全く異なる世界観で取り組まないといけない。

 Ni比率を減らしつつ、エネルギー密度を20%向上させた電池を30年までに実現する。

(久米秀尚)