今年の夏も暑かった。気温が上昇し、日差しが強くなるにつれて増える自動車事故がある。車内への子供の置き去りだ。悲しい事故を撲滅するため、自動車メーカー各社が幼児置き去り検知機能の開発を本格化させている。キーワードは、「2022年」と「60GHz帯ミリ波レーダー」、そして「マルチファンクション」の3つだ。
2020年6月17日、茨城県つくば市で車内に長時間放置された2歳の女児が死亡した。熱中症が原因とみられる。同様の事故は、欧州や米国でも年間数十件発生している。つくば市の事故の数日前には、米オクラホマ州で2人の幼児がトラックに放置されて亡くなったばかりだった。
「対応しなければならない重要な課題だと認識している」。ある国内自動車メーカーの内装技術者は真剣な表情で訴える。対応策として自動車メーカー各社は、車内にセンサーを配置して幼児の存在を検知し、運転者や車両周囲の人に警告するシステムの導入を検討中だ(図1)。
各社は開発を急ぐが、ジレンマに悩まされている。前述の技術者はこう語る。「社会的な意義は大きいが、幼児置き去り検知機能のためだけにセンサーを追加するのはコスト的に実現が難しい」。
ペットの検知や乗員の乗車位置の把握、シートベルトリマインダーやHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)への活用など、「1つのセンサーをマルチファンクション(複数の機能)で使えるようにすることで実現の道筋が見えてくる」(同技術者)という。
実用化の目標時期は22年ごろ。ジレンマを解消できるセンサーはないか。自動車メーカー各社が模索する中で、1つの有力候補が浮上した。60GHz帯のミリ波レーダーだ。車外向けは24GHz帯と、77GHz帯のミリ波レーダーが主流だが、車内向けでは“新参者”の60GHz帯を本命視する声が目立ち始めた。