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電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の充電器の増設を目指す欧州。既にガソリンスタンドの数を超えている同充電器をなぜ増やすのか─。そこには、EVやPHEVの利便性を高める狙いがあるとみられる。低価格化が進むEVと欧州の環境政策の関連を読み解く。

欧州グリーンディールを発表した欧州委員長のUrsula von der Leyen氏
欧州グリーンディールを発表した欧州委員長のUrsula von der Leyen氏
(出所:EC-Audiovisual Service、撮影:Jennifer Jacquemart)
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 「EVの所有コストは、西欧ではディーゼル車に近い」。2020年6月30日に開催されたフランスGroupe PSA(グループPSA)の「CITROEN(シトロエン)」ブランドによる新型EV「e-C4」の発表会でこう語ったのが、同ブランドCEO(最高経営責任者)のVincent Cobee氏だ(図1)。欧州では既に、ドイツVolkswagen(VW、フォルクスワーゲン)がグレードによっては総所有コスト(TCO)でエンジン車に優位に立つ新型EV「ID.3」の納車を、一部グレードから開始しており、EVの低価格化が加速している(図2)。

図1 グループPSAのシトロエンブランドの新型EV「e-C4」
図1 グループPSAのシトロエンブランドの新型EV「e-C4」
ハッチバックタイプのEV。50kWhの電池を搭載し、WLTPモードの航続距離は350km。(出所:グループPSA)
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図2 VWの新型EV「ID.3」
図2 VWの新型EV「ID.3」
ハッチバックタイプのEV。普及グレードの「ID.3 Pure」は48kWh(推定値)の電池を搭載し、WLTPモードの航続距離は330km。(出所:VW)
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 エンジン車とTCOで肩を並べつつあるEV─。その満充電時の航続距離(以下、航続距離)は、欧州のWLTPモードで300km台だ。具体的には、VWの「ID.3 Pure」が330km(電池容量48kWh=推定値)、シトロエンのe-C4が350km(同50kWh)である。

 欧州の新世代のEVは、このWLTPモードで300kmが1つの目安になっている。そう分析しているのが、PwCコンサルティングでディレクターを務める轟木光氏だ。「EVは高速走行時の電池消費が激しくなる。航続距離が300km以上あれば、アウトバーンを200kmくらいは走れる」(同氏)。今後、アウトバーンの途中に急速充電ステーションが満遍なく整備されれば、EVを安心して使えるようになる。

 EU(欧州連合)のしたたかな点は、そうした急速充電ステーションの整備をEU全体で進める支援策を講じていることだ。EUの欧州委員会は19年12月11日、50年までにEU域内の温暖化ガスの排出量をゼロにするという目標に向けた政策「欧州グリーンディール(European Green Deal)」を発表、20年1月14日にはその実現のために今後10年間で1兆ユーロ(1ユーロ=123円換算で123兆円)を投資する「欧州グリーンディール投資計画(The European Green Deal Investment Plan)」を発表した。その投資対象の1つが、急速充電ステーションなどの公共充電設備である。