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世界の自動車産業で電動化が、いやいや電気自動車(EV)化が筆者の想像をはるかに超える勢いで加速し始めた。今後5年以内に雪崩を打つようにEVが世界で広がり、埋め尽くすかもしれない。引き金が、独Volkswagen(フォルクスワーゲン、VW)グループである。世界最大級の自動車メーカーである同社が2021年3月に発表した電動化ロードマップが、衝撃的だ。世界のメーカーが、戦略の見直しを余儀なくされるだろう。

 VWグループは「Power Day」と呼ぶ電動化戦略の発表会において、30年までの驚異的なEV拡大策とともに、充電インフラを含めたEVの諸課題を克服する覚悟と決意を示した(図1)。米Tesla(テスラ)への強烈な対抗策でもある。これでEV化の雪崩が起きれば、元には戻らない。日本の自動車産業にとって、大きな脅威だ。

図1 VWグループ会長のHerbert Diess氏
図1 VWグループ会長のHerbert Diess氏
(出所:Volkswagen)
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 VWグループが打ち出した戦略の柱は大きく4つである。EVの諸問題の解決に莫大な投資で勝負をかけてきた。

  • (1)電池のコストを最大50%削減
  • (2)合計240GWh級の生産能力を有する電池工場「ギガファクトリー」を6カ所建設
  • (3)欧州全体に高出力な急速充電ステーション網を25年に20年比5倍に拡大
  • (4)EVをスマートグリッドに取り込みシステム化

 電池については、30年の生産の8割を角型の「Unified Cell」と呼ぶ搭載自由度の高い形状に統一し、リサイクルを含めたクローズドループのサプライチェーンまで考えている。電池の負極材として現状は黒鉛を使うが、正極材については車両グレードによって3種類を使い分ける。1種類に統一したほうがよさそうだが、後述のように400万台以上に相当するEV電池を大量生産するには、1種類に絞ると材料調達などの課題も大きい。

 低グレード車には、リン酸鉄(Fe)系リチウムイオン(LFP)電池を利用する。エネルギー密度は低くなるが熱安定性が高い上、レアメタルのコバルト(Co)を使用しない。(1)のコスト半減を掲げる電池はこれである。

 スタンダード車には、マンガン(Mn)酸系リチウムイオン電池を使う。大容量で耐久性が高く、これもCoを使わず、コストを30%削減できるという。高グレード車には、高出力なニッケル(Ni)・Mn・Co酸(NMC)系リチウムイオン電池である。このグレードには25年ごろにリチウム金属負極の全固体電池も準備しているようだ。

 さらに電池セルや冷却系を含めた電池パックシステムの高性能化のために、モータースポーツでテストしながら開発に力を入れるという。

 VWグループがこれほど大量の電池生産を自ら手掛けるのは、強い危機感があるからだ。電池生産は現在、アジア地域が大半を占めており、欧州の存在感はほとんどない。またVWグループは25年に年間150万台のEVを市場投入する計画だが、電池が足りない。

 電池調達を確実にするため、(2)で掲げるようにVWグループは出資先のスウェーデンNorthvolt(ノースボルト)とともに、Tesla同様にギガファクトリーと呼ぶ電池工場を欧州の6カ所に建設する。合計240GWh級の生産能力だ。EV台数に換算すると、400万~500万台に相当する。まずはスウェーデンの工場で23年から生産を開始する予定だ。ギガファクトリーの呼び名や規模がTeslaと同じで、露骨な対抗策である。

 EVの普及には充電インフラが最も重要となるが、VWグループは(3)のように自らが中心になって拡大する計画を打ち出した。「HPC(High Power Charging)-Boost-Program」と銘打って、欧州20カ国に25年までに20年比5倍となる約1万8000カ所の高出力急速充電ステーションを構築するという。

 VWなど欧米の自動車メーカーで構成する充電インフラ企業IONITY(アイオニティー)と連携して、約4億ユーロの投資を計画している(図2)。急速充電システムは350kW級で、800Vの高電圧まで想定しており、17分程度でフル充電できる水準のようだ。これほどの規模とスピードは驚異的だ。

図2 IONITYの急速充電インフラ
図2 IONITYの急速充電インフラ
(出所:Volkswagen)
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 また欧州に加えて、中国でも1万7000カ所設置する。さらに北米ではVWが出資する充電インフラ企業Electrify America(エレクトリファイ・アメリカ)とともに、約3500カ所の急速充電ステーションの構築を明言している。

 EV普及のためには、VW自らが充電インフラ構築に深く関与せざるを得ないと考えるわけだ。充電インフラには公共的な側面があり、民間企業がどこまで関与するのか議論の余地はあるが、VWの方針はTeslaの戦略に追従するものといえる。

 もちろん、充電インフラに関しては欧州連合としても推進する。欧州委員会が19年に発表した「欧州グリーンディール政策」の一環として20年に「エネルギーシステム統合戦略」をまとめた。その中で、30年までにEU領域内の急速充電ステーションを300万カ所に拡大する目標を掲げる。20年の段階で約20万カ所であり、15倍に相当する。欧州委員会が各国の充電インフラ整備に補助金を出しており、動きが加速している。

 EVの利点でもあるV2H(Vehicle to Home)機能を活用して、(4)のように社会のスマートグリッドにEVを統合させる計画も発表した。再生可能エネルギーを活用したグリーン電力網の平準化に貢献するし、電力需要の少ない時間帯にEVを蓄電池として活用できる。加えて大量のEVを充電することによる系統電力の負荷を緩和できるだろう。