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従来は質量で規制してきた自動車排出ガス中の粒子状物質。最近、微小粒子の健康影響への懸念から、粒子状物質の粒子数まで「PN」として規制する動きが出ている。ただ現状では、微小粒子の多くを占める揮発性粒子の個数計測は困難。妥協しつつも始まったPN規制における粒子計測法について解説する。(編集部)

 2000年ごろから、大気中に漂う微小粒子への注目度が高まっている。微小粒子の健康影響の程度やメカニズムはまだ不明だが、小さい粒子がそのまま体内に取り込まれる可能性や、粒子表面に付着する物質が健康に影響を及ぼす可能性などが示唆されているからだ。

 自動車排出ガス中の粒子状物質は、従来、フィルターで採取し、その質量を「PM(Particulate Matter)」と定義して規制する方法を取ってきた。だが最近では、粒子排出量が大幅に減り、PMの計測が難しくなってきた。加えて、粒子状物質の中でもとりわけ小さい微小粒子の質量は測りにくいため、PM規制では微小粒子の排出を効果的に抑制するのは難しい。欧州連合(EU)加盟国が2014年に、乗用車に対して「粒子数(PN:Particulate Number)」という新しい指標での規制を開始したのは、このような背景による。

 同様の動きは他の国・地域でも広がっている。表1に、各国・地域で決定された乗用車の粒子数規制の例を示す。日本国内でも検討が始まっている。また、粒子数計測法はリアルタイムの濃度変化を確認できるため、RDE規制での活用も始まっている注1)

表1 乗用車の排出ガスにおけるPN規制の例
CIはCompression Ignition(圧縮着火)の略でディーゼルエンジン、DI-PIはDirect Injection-Positive Ignition(直噴・火花点火)の略で直噴ガソリンエンジン、PIはPositive Ignition(火花点火)の略でポート噴射ガソリンエンジンをそれぞれ指す。
表1 乗用車の排出ガスにおけるPN規制の例
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注1)RDEはReal Driving Emissionsの略。車載の計測機器を使用して実路走行条件で測定し規制する。

 このPNという指標は全く新しいものであり、その規制の導入に当たっては時期や基準値だけではなく、計測方法(サンプリング法・粒子検出法・装置校正法など)も詳細に検討した。以下に、PN規制のために新たに確立された「固体粒子数計測法」について、原理や検討の経緯を紹介する。

国連傘下の委員会で新計測法検討

 実際にPNの計測方法を検討したのは、国際連合傘下の専門委員会である。国際連合欧州経済委員会(UNECE)の「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」は2001年、「粒子状物質の従来の計測法を代替または補完する計測法を検討する」という目的で、傘下に「PMP(Particle Measurement Programme)」という専門委員会を発足させた。

 PMPでの検討は3段階に分けて進められた。第1段階では粒子状物質の新しい計測手法の候補を洗い出した(表2)。粒子の表面積の大きさ、粒子の数、ブラックカーボンの質量など、さまざまな指標に着目した粒子計測方法を候補として抽出した。さらに、粒子のサンプリング方法についても複数の方式を想定して、粒子検出法を組み合わせたシステムとして評価した。検討したのは、従来の排出ガス計測で実績のある希釈サンプリング法、さらに直接サンプリング法や加熱希釈法などである。

表2 PNの計測法を検討する専門委員会「PMP」が候補に挙げた手法
表2 PNの計測法を検討する専門委員会「PMP」が候補に挙げた手法
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 第2段階では、候補となった複数のシステムについて、計測システムの精度、同一のシステム・操作者による繰り返し再現性、各種条件が変化した場合のロバスト性、トレーサビリティーの確保で求められる校正の可否、コストなど、多方面から検証した。その上で、最終候補となる計測システムを選定した。

 最終段階では、この最終候補の手法について、研究室(ラボ)間の相関を検証する「インターラボ試験」を行った。具体的には、各国・地域の研究機関に同一の計測機器一式と試験車両を運び、試験を担当する作業者・ラボが異なる場合のばらつきを検証した。

 入念な検討の結果、次期規制に向けた粒子計測法として、「米国の2007年規制で用いられる設備規定を適用したフィルター重量法」に加えて、「加熱希釈によって半揮発性粒子(Semi-volatile Particles)を除去した粒子数計測法」を選定した。

 2008年には、後者の固体粒子数の計測手法の最終案が、UNECEのECE規則No.83(乗用車排出ガスの認証に関する規定)の改定案として提出され、2009年4月に正式に発効した。計測法の確定と並行して、2007年当時において次期・次々期の排出ガス規制とされていた「Euro 5」「同6」に、「PN」として排出粒子数の規制を盛り込むことが公布され、2008年にはその基準値も発表された。