電気自動車(EV)の普及に向け、開発は企業の垣根を乗り越えた総力戦の様相を呈してきた。その筆頭がドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)。EV専用プラットフォームを開発し、グループ全体で共用することで大幅な低コスト化を狙う。自動車メーカーをEVに駆り立てるのは、強化が進む環境規制の存在。新たなEVの相次ぐ投入でEVの競争は激化、差異化が一層重要になる。
「ガソリン車並みの航続距離を持つEVを、ディーゼル車並みの価格で市場に投入する」―注1)。その目標に向け、VWが本気だ。
注1)ガソリン車とディーゼル車の価格差を仮に約20万円、搭載する電池容量は約60kWhと仮定すると、現状のEVとディーゼル車の価格差は約100万円と推定できる。VWの目標は400万円台のEVを約100万円安くするという目標と考えられる。
EV専用プラットフォーム「MEB」注2)を開発。ドイツ・アウディ(Audi)やスペイン・セアト(SEAT)、チェコ・シュコダ(Skoda Auto)、VW商用車などのVWグループに展開する(図1)。MEB適用車の年間の販売目標は、VW単独で2020年に15万台、25年に100万台。グループでは、累計1000万台以上の同適用車の販売を狙う。
注2)Modular Electric Platformのドイツ語Modularer Elektrobaukastenの略。
量産規模を拡大しEVの低コスト化を強力に推進する。同社が19年1月に提携を発表した米フォード・モーター(Ford Motor)もMEBを採用すれば、同効果はさらに拡大する。
EVを本格的に市場に普及させるためには、低価格化が重要だ。とりわけ大衆向けのEVでは、それが不可欠である。IHS Markitのプリンシパルアナリストの波多野通氏は、「顧客は購入可能な価格帯にならなければ販売店に足を運んでくれない。EVを知ってもらい試乗してもらうためには低価格化は避けて通れない」と言い切る。
実は、現状のEVはガソリン車と比べて大まかには電池の分だけ価格が高い。日産自動車でEV開発のプログラムダイレクターを務めていた、米J.D.Power and Associates社日本法人(J.D. Power Japan)社長の山本浩二氏によれば、ガソリン車のエンジン、変速機、燃料タンク、排気系のコストと、EVのモーター、ギアボックス、インバーター、電動ブレーキや電動エアコンのような電動化のコストがだいたい同じくらい。専門家の取材から電池のコストは、現時点では約2万円/kWhとみられる。
実際、日産自動車が19年1月に発売した62kWhの電池を搭載するEV「リーフe+」は、航続距離を458km(WLTC)とガソリン車に迫る水準に延ばした(図2)。だが、価格は416万2320円からと、ガソリン車やディーゼル車と比べるとまだ高価だ。40kWhの電池を搭載するEV「リーフ」の同グレード車(366万1200円)との間でも50万1120円の価格差がある。仮に、この価格差が22kWh分の電池代と仮定して計算すると、電池代は2万2778円/kWh注3)。利益を上乗せしていると考えれば、前述の約2万円/kWhとの推定は妥当な線だろう。
注3)リーフe+は、リーフに対して最高速度や加速性能を高めているため、この価格差が22kWh分の電池代とは言い切れない。ただ、主にソウトウエアの改良でそれを実現していることから、それほど遠くないと考えられる。
国際エネルギー機関(IEA)やアーサー・ディ・リトル・ジャパンの試算では、TCO(Total Cost of Ownership)でEVがガソリン車並みになるのに必要な電池のコストは、1万2000円/kWh。そこにはまだ大きな隔たりがある。車両価格でディーゼル車と同程度にするには、これをはるかに超える低コスト化が必要になる。