全5028文字
PR

熱効率50%超は定点運転が要

 内燃機関の最大熱効率が50%を超えるためには、どのような研究に取り組めばいいのか。現在実用化されている最高熱効率50%のエンジンを例にひもといてみよう。

 19世紀後半、オットーやディーゼルにより、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンの原型が開発されてから、これまで、内燃機関の熱効率は改善されてきた。現在、実用化されている乗用車用のガソリン、ディーゼルエンジンの最大熱効率は、42~43%。SIP「革新的燃焼技術」では、世界に先駆けて熱効率50%達成のめどが立った。

 しかし一方で、乗用車用の内燃機関の熱効率は50%が限界ではないのかとの声も聞こえるほど、50%を超えることは難しいとされている。これ以上の熱効率向上を図るためには、さらなる革新が必要だ。その考え方のヒントが、発電所や船舶などで使われている定置型の低速ディーゼルエンジンの熱効率にある。現在、実用化されている低速ディーゼルエンジンの最大熱効率は55%と、50%を上回っているからだ。

 燃料エネルギーの入力から出力までを示した熱勘定で低速ディーゼルと乗用車ディーゼルを比較すると、いくつかの違いがあることが分かる(図3)。

図3 低速ディーゼルと自動車用ディーゼルの熱勘定
図3 低速ディーゼルと自動車用ディーゼルの熱勘定
低速ディーゼルエンジンで熱効率を高くできるのは、廃熱回収の効果が大きな要因の1つだ。蒸気タービンでエネルギーを回生して5.6%回収している。自動車用エンジンの場合は、運転領域が全域となることから排気の熱が低く廃熱回収の効果が小さいため、回生エネルギーを活用するケースはほとんどない。(出所:AICE)
[画像のクリックで拡大表示]

 例えば、低速ディーゼルの冷却損失は8.1%と、乗用車ディーゼル(28.9%)の3分の1程度しかない。これは、ボア径が大きいため燃焼ガスがエンジンの中心部に集まることが影響していると考えられる。シリンダー壁との間にある冷たい空気層によって遮熱効果が得られることから、冷却損失が抑えられるというわけだ。この効果だけでも、正味の熱効率は49.3%とSIPの研究成果近くまで向上できる。

 最も大きな違いは、低速ディーゼルは廃熱回収の効果が大きいという点だ。蒸気タービン回生による廃熱回収は5.6%で、軸出力の49.3%と合わせると熱効率は55%に上る。廃熱回収技術は、乗用車用エンジンでも検討されている。だが現状では、1~2%程度と効果は小さい。廃熱回収を乗用車用エンジンでも効率的に使用できれば、熱効率をさらに向上させることが可能になる。

 ではどのように実現するのか。1つは、排ガス温度を高めることにある。発電などで使われる低速ディーゼルは一定の回転・トルクで運転(定点運転)しているため、排ガス温度は高温で安定することから、効率よく廃熱回収ができる。乗用車用エンジンでも同様に、定点で運転すれば排気温度を高められて、廃熱回収の効率が向上する。ディーゼルでもガソリンでも考え方は同じだ。

 つまり、HEVで50%超の熱効率を目指すのであれば、定点運転により廃熱回収などの効率を高めることが1つの手となる。

 とはいえ、エンジンは低負荷から高負荷領域まで全域で使うとなると定点運転は難しい。そこで活用するのがハイブリッドの技術だ。

 電池やモーターの容量、パラレル方式やシリーズ方式といったハイブリッドの仕組みなどで多少異なるが、エンジンの燃費が悪い低負荷域はモーターで走行し、エンジンの熱効率がよい中負荷域はエンジンが担うように役割を分担する(図4)。このことで、エンジンの運転領域は効率がよいところに絞れ、定点運転に近い運用ができる注3)

注3)エンジンを動かす領域では、エンジンを駆動力として使ったり、発電用として使ったりする。

図4 電動化によるエンジンの熱効率向上の可能性
図4 電動化によるエンジンの熱効率向上の可能性
エンジンの運転領域を高効率の中負荷以降に限定することで、高効率化と低エミッション化が可能になる(出所:AICE)
[画像のクリックで拡大表示]

 運転領域を制限すると、廃熱回収の効率を高める以外にも熱効率や燃費が向上する効果が期待できる。例えば、排ガス温度を高く保てれば、排気後処理の効率向上が見込める。

 低負荷域の運転を考慮しなくてよくなれば、エンジンの低温時における使用への配慮も必要なくなる。そのため、エンジンオイルを高温用の低粘度オイルに変更することができ、摩擦損失を低減する効果が期待できる。

 加速時にモーターを活用することで、エンジンの最高回転速度や最大トルクを抑えることは、振動(フリクション)の低減にもつながる。振動が少なくなれば、摩擦損失を低減できる。回転速度を低くできれば、ロングストローク化も可能だ。空燃比(A/F)で30を超える超希薄燃焼(スーパーリーンバーン)の際に燃焼の安定性を確保できる他、冷却損失を低減できるといった利点が生じる。

 このように、将来に向けたシナリオを想定し、これまでの内燃機関では達成できなかった新たな技術領域を見つけ出すことがAICEの使命だと考えている。AICEは将来の核となる新たな研究領域を定義し、その技術領域をリードしていく研究者の育成を産学官連携によって目指す方針だ。

 次回は、AICEが進めてきた産学連携、および、2020年度から立ち上げ予定の新たな産学コンソーシアムについて述べる。