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高い目標を掲げた内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的燃焼技術」。実現性を懸念する声も聞かれたが、熱効率50%超のエンジン技術や科学の知見を産が活用する礎が構築された。(編集部)

 「サイエンス(科学)を標榜した研究のための研究」を進める学と「サイエンスを忘れた応用研究」にしか取り組まない産。ある材料系の先生が講演で語った産学連携の難しさを表した言葉だ。内燃機関の世界でも、これが全く当てはまらない訳ではなかった。

 これを大きく変えたのが、2014〜18年度に実施された内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的燃焼技術」(以下、SIP燃焼)である。プログラムディレクター(以下、PD)として同プログラムをリードしたトヨタ自動車の杉山雅則氏は、学の研究では非常に珍しくチャレンジングな「最大熱効率50%」の数値目標とともに、学−学、産−産、産−学の強い融合を目指した「持続的な産産学学連携の構築」を目標に掲げた1)。AICEは、この2つの目標が理念に合致することから、SIP燃焼の管理法人である科学技術振興機構(JST)と連携協定を結び、計画立案から成果活用に至るまでの研究活動全般を支援してきた(図1)。

図1 SIP燃焼の研究体制
図1 SIP燃焼の研究体制
SIP燃焼は、約80大学の研究者・学生が、「ガソリン燃焼」「ディーゼル燃焼」「制御」「損失低減」の4チームを構成し、AICEは燃焼研究委員会の下にその4チームに対応する5分科会を設け、約120人が5年間の支援を行った。PMは粒子状物質のこと。〔出所:SIP「革新的燃焼技術」最終公開シンポジウム関連資料(https://www.jst.go.jp/sip/k01_kadai_siryo0129.html)〕
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 そしてSIP燃焼では、これらの目標を果たす。ガソリン、ディーゼルともに、革新的な燃焼コンセプトの効果(図2の2番目に濃い灰色部)と、損失低減チームの排気エネルギー回収と摩擦損失低減の効果(図2の最も濃い灰色部)によって、見事に50%を達成注1)。産産学学連携についても、強い一体感をつくり出せた注2、3)

図2 最大熱効率50%の達成
図2 最大熱効率50%の達成
ガソリン、ディーゼルともに、目標の50%を上回ることができた。(出所:SIP「革新的燃焼技術」最終公開シンポジウム関連資料)
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注1)SIP燃焼開始時には、燃焼の専門家の間でも達成を危ぶむ声が多く聞かれた。目標の達成はまさに快挙と言える。
注2)卓越したPDやJSTのマネジメント、目標達成を目指したチーム活動とリーダーのイニシアチブ、夜間や休日開催の会合への参加などを通じて一体感をつくり出した。
注3)この連携を継続発展させるために産学共通プラットフォームとして、オープンラボ(研究拠点)、データベース、モデル(「HINOCA」など)をつくり、現在もSIP燃焼の遺産として産学連携に活用している。さらに学-学連携をより強固にするために、「ゼロエミッションモビリティパワーソース研究コンソーシアム」を産業技術総合研究所に設置、AICEも特別会員として、その運営の支援を行っている。

 SIP燃焼では、もう1つ大きな成果が生まれている。4つのチームから生まれた科学の知見を制御チームがモデル化し、これを産が活用できるようになった(図3注4、5)

図3 科学をモデル化して産が活用する
図3 科学をモデル化して産が活用する
PFはプラットフォーム、MBDはモデルベース開発の略。(出所:SIP「革新的燃焼技術」最終公開シンポジウム関連資料)
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注4)SIP燃焼に対する科学の知見は、モデルに記述できるか否かで現象の解明レベルを明らかにできる。さらに、そのモデル化により、解明できた部分を蓄積し活用を容易にできる。オープンソースとしてモデルの中身が分かれば、若手技術者育成にも活用できる。結果的には、サブモデルなども含め100以上の高度なモデル群の提供を可能にした。
注5)産学共通プラットフォームを活用して創出したモデルを、AICEが整備を進めている活用推進体制によって自動車業界全体で活用していけるようになれば、モデルベース開発(MBD)が進展し日本の産業競争力を強化できる。それによって生み出される利益を学の研究資源として再投入すれば、好循環が期待できる。