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ドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)は電気自動車(EV)「ID.3」の量産を開始した。「ビートル」「ゴルフ」に続く大衆車と位置づけ、ベース価格を3万ユーロ(360万円)に抑えた。しかし、電池コストの負担が大きく、エンジン車に比べて利益率が低下することは避けられない。今後、EVを事業の柱に育てるためには何が必要なのか、EV計画の責任者に聞いた。

 「我々は戦略を転換した。世界中で二酸化炭素(CO2)の排出を減らし、2050年に完全にCO2ニュートラル(中立)な企業になる。その第一歩が、電気自動車(EV)の『ID.3』だ」。ドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)でEV戦略を率いるThomas Ulbrich氏(Member of the Board of Management of the Volkswagen Brand responsible for E-Mobility)はこう述べる(図1、2)。「CO2を減らすためにはEV以外の選択肢はない」(同氏)とも語る。

図1 ID.3のプラットフォーム「MEB」
図1 ID.3のプラットフォーム「MEB」
MEBの採用により、より多くの電池を床下に搭載できるようにした。電池容量は柔軟に変えられる。ID.3では3種類の電池容量を用意した。VWの資料を基に日経Automotiveが作成。
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図2 EV戦略の責任者を務めるThomas Ulbrich氏
図2 EV戦略の責任者を務めるThomas Ulbrich氏
ID.3は車両価格、航続距離、充電時間というEVの3重苦を解決できたと主張する。(撮影:日経Automotive)
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 ID.3はEVが抱える車両価格の高さ、航続距離の短さ、充電の困難(インフラ不足や充電時間の長さ)という“3重苦”を「ほぼ解決した」(同氏)と主張する。ベース価格は3万ユーロ(360万円)に抑えた。航続距離はWLTPモードで330km、420km、550kmの3種類。充電は出力100kWの急速充電に対応し、30分で290km分を充電できる。充電インフラの普及には課題が残るものの、目下その整備を進めている。「多くのユーザーが日常生活で使えるレベルに仕上げた」(同氏)という。

 EV専用プラットフォーム「MEB」の採用によって、車室内の居住性も改善した。「ホイールベースを長く、オーバーハングを短くすることで、Cセグメントの外観のままDセグメントの居住性を実現した」(同氏)。MEBは床下に電池を敷き詰めるため、重心が低く、日々の使い勝手も改善するという。走りの楽しさも追求した。「3.5秒で停止状態から60km/hまで加速する。これは『ゴルフGTI』とほぼ同じだ」(同氏)。

 ID.3の量産を2019年11月にドイツのツヴィッカウ(Zwickau)工場で開始した(図3)。工場ではエンジン車からMEBへの転換を急ぐと共に、グリーンエネルギーへの切り替えも進める。「ID.3はCO2ニュートラルな条件で生産される世界初のクルマだ。我々はそのためにサプライチェーンを精査した。電池はグリーンエネルギーを使うと約束したメーカーだけと取引している」(同氏)。ID.3の生産に必要なエネルギーの90%をグリーンエネルギーでまかない、残り10%を環境貢献活動を通じて補償することで、CO2ニュートラルを達成する。

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図3 ドイツのツヴィッカウ工場をMEB用に転換し、EVの量産に対応
(a)ツヴィッカウ工場では2019年11月に「ID.3」の量産を開始した。(b)式典にはドイツのメルケル首相が出席した。(c)ツヴィッカウ工場は段階的にMEB専用ラインに転換する。VWの資料を基に日経Automotiveが作成。