新型の電気自動車(EV)や自動運転の開発に注目が集まる米テスラ(Tesla)。だが、同社の強さの源泉は他にある。車載電子プラットフォーム(基盤)だ。既存の自動車メーカーが2025年以降に導入予定の“理想形”をいち早く導入した。この実用化は、自動車業界の従来型サプライチェーンを崩壊させる可能性を秘める。
「うちの会社にはできない」。ある国内自動車メーカーの技術者が、米テスラ(Tesla)の車載コンピューターを見て白旗を揚げた。
Teslaは量産中の電気自動車(EV)である「モデル3」や「モデルS」などに、「HW3.0」と呼ぶ車載コンピューターを搭載する(図1)。内蔵する半導体を自社開発し、自動運転とインフォテイメントなどの機能を統合制御するECU(電子制御ユニット)の役割を一任した。
車載電子プラットフォーム(基盤)の中核に高性能なコンピューターを据えるアーキテクチャーは「中央集中型」と呼ばれる。自動車業界の関係者は異口同音に「実用化は2025年以降」と説明してきた。
一方のTeslaがHW3.0を導入したのは2019年春(図2)。他社を6年以上も先行したことになる。Teslaは自動運転システムの進化に合わせて車載電子基盤を刷新。2014年9月に第1世代を投入して以降は、2~3年という極めて短いサイクルで開発を進めている。
圧倒的なスピードで構築したTeslaの中央集中型の車載電子基盤は、他の自動車メーカーのみならず、業界全体にとっての脅威になる。長い歳月をかけて積み上げてきた既存の部品供給網(サプライチェーン)を崩壊させる可能性を秘めるからだ。