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 米テスラ(Tesla)が「モデル3」で狙うのが、量産メーカーという地位の確立だ。その決意の表れがボディーで、軽量化よりも量産性やコスト低減を優先させた。販売価格を3万5000ドルからに抑えて年間50万台規模の量産を目指すため、高級セダン「モデルS」で多用したアルミニウム(Al)合金は最小限にとどめた。

 モデル3のボディーは、骨格に引っ張り強さが980MPa級以上の高張力鋼板を適用した(図1)。アルミニウム(Al)合金を使うのは外板が中心で、他の自動車メーカーのモノコックボディーと同様の思想で設計した。骨格に高張力鋼板を使うことで、ボディー骨格の質量増加をできるだけ抑えながら、衝突安全に対応する。

図1 分解したモデル3のボディー
図1 分解したモデル3のボディー
骨格には高張力鋼板を使う。AI合金は、外板を中心に適用した。(撮影:日経Automotive)
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 ボディー全体を軽くするために、外板ではフロントフードや前後のフェンダー、前後左右のドア、荷室ドアにAl合金を使った。これらの部位にAl合金を適用したのは、モデルSと同じある。

 一方、コストの増加を抑えながら全方向(前方、後方、側面)の衝突安全に対応するために、骨格にはAl合金を使わず、超高張力鋼板を適用した。前方衝突対応の面では、フロントフレームが高張力鋼板製である。

 ただ、フロントサイドメンバーの先端は、Al合金製とした。前面衝突時にこの先端部分を変形させて、衝撃エネルギーを効率的に吸収するためである(図2)。

図2 衝突エネルギーを吸収する部位にはAl合金を採用
図2 衝突エネルギーを吸収する部位にはAl合金を採用
モデル3は、フロントサイドメンバーの先端や後輪側の荷室部分にAl合金を使う。(撮影:日経Automotive)
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 センターピラーやフロントピラー、サイドシル、ルーフレール、フロア・クロス・メンバーなどにも高張力鋼板を使った。側面衝突時に乗員室やリチウムイオン電池パックを変形させないためである。特に、高い強度が求められるセンターピラーなどには、引っ張り強さが1.5GPa級のホットスタンプ(熱間プレス材)を適用したとみられる。

 後方衝突への対応では、車両後部(荷室部分)をゆるやかに変形させて、衝撃エネルギーを吸収させる構造とした。そのため、荷室部分や荷室の周りを取り囲むフレーム部分をAl合金製とした。フロントフード下は空洞になっており、荷室として使える。そのため、車両の後部が重くなる。荷室部分にAl合金を使ったのは、車両質量の前後配分を50対50に近付ける狙いもある。