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自動運転レベル3の技術にはまだ、高い信頼を寄せるだけの十分な実績がない。そのため、今回の法整備は技術の進化過程という過渡期を意識したものになった。周辺監視はシステムに任せて携帯電話の使用などを許容する一方で、安全運行義務は運転者に残す。高速道路の同一車線低速走行に限って詳細な基準を規定し実質的に適用領域を限定した。

 レベル3の自動運転中でも、これまでのレベル2以下と同様、運転者に安全運行義務が課される。事故時の物損に対しては、被害者が加害車両の運転者の過失を証明しなければ補償を受けられない。既にPart1で説明した通りだが、レベル3の自動運転車の利用者から見れば、不利益を被っているように見える。

 では、なぜこのような法整備になったのか―。それは、自動運転レベル3の技術にはまだ、高い信頼を寄せるだけの十分な実績がないためだ。そこで選択したのが運転者に安全運行義務を残しつつ、自動運転レベル3の技術の活用を容認するという“妥協策"である。技術の進化過程という過渡期を意識した法整備と言えそうだ。

 Part2では、自動運転レベル3の実用化に向けて法制度にいかに折り合いをつけたのか、日本の法整備と国際基準化の動向を見ていく。

自動運行装置による利用も運転行為

 日本において道路交通に関する法制度の両輪となるのが、「道路交通法」と「道路運送車両法」である(図1)。そして後者を補完するのが、「道路運送車両の保安基準」(省令)と「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」(告示)、および同告示に付与される別添技術基準である。自動運転レベル3の解禁は、これらの改正によって実現した。省令・告示・別添技術基準では、道路運送車両の基準内容や条件付与手続きの詳細を定めている。

図1 道路交通に関わる国際条約・基準と日本の法制度
図1 道路交通に関わる国際条約・基準と日本の法制度
WP1は国際連合欧州経済委員会(UNECE)傘下の道路交通安全グローバルフォーラム、WP29は同自動車基準調和世界フォーラム。(出所:日経Automotive)
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 道路交通法は、簡単に言えば、車両の運転者に対する義務や交通ルールを定めた法律である。一方、道路運送車両法は、大まかには公道を走れる車両(道路運送車両)が満たすべき要件を定めた法律である。道路交通法の改正は警察庁が、道路運送車両法の改正は国土交通省が深く関与している。

 改正前の道路交通法は、運転行為を行うのは人間という前提に立っていた。また、改正前の道路運送車両法は、人間に代わって車両を運転する装置に対する規定が無かった。そこで、今回の改正で新たに取り入れたのが「自動運行装置」という新しい概念だ(図2)。

図2 道路交通法と道路運送車両法における今回の改正の大枠
図2 道路交通法と道路運送車両法における今回の改正の大枠
自動運行装置という新しい概念を導入して折り合いを付けている。(出所:日経Automotive)
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 自動運行装置とは、人間に代わって車両を運転する装置、すなわち自動運転システムのことだ。道路交通法では、自動運行装置を使い車両を利用する行為を運転行為に含むと改正、自動運転装置を使い車両を利用する人間を運転者の1つの形態とした。その上で、そのような運転者に対する義務を規定した。

 実は、こうした内容に落ち着くまでには、紆余(うよ)曲折があった。日本の道路交通法には、上位に道路交通に関する国際的な条約「ジュネーブ道路交通条約」が存在する。国際的な交通条約には、主に日本や米国が批准するジュネーブ道路交通条約と、主に欧州が批准する「ウィーン道路交通条約」の2つがある。これらの国際的な道路交通条約では、自動車には運転者がいなければならないこと、および運転者が適切に操縦しなければならないことを規定しており、改正が必要とされていた。

 これらの条約の改正を受け持つのが国際連合欧州経済委員会(UNECE)の「道路交通安全グローバルフォーラム(WP1)」である。ウィーン道路交通条約は、自動運転システムが国際基準に適合しているか、運転者によるオーバーライドやスイッチオフが可能な場合は上記の規定に適合しているものとみなすとの改正案がWP1で可決され、2016年に施行されている。だが、日本や米国などが批准するジュネーブ道路交通条約では、同様の改正案が出されたものの否決となり、改正に至っていない。

 WP1では、両条約のずれを解消しようと議論を繰り返してきた。その結果、WP1はジュネーブ道路交通条約も解釈として自動運転を認めることは可能との見解から、2018年9月、自動運転の開発に取り組んでいこうとの決議で決着。UNECEは翌月、法的に拘束力のないレコメンデーション(recommendation)という形で文書を発行した(図3)。批准国は、これにより国内法の整備に進むことが可能となった。

図3 UNECEが発行したレコメンデーション(推奨事項)
図3 UNECEが発行したレコメンデーション(推奨事項)
UNECEが発行した文書(http://www.unece.org/fileadmin/DAM/trans/doc/2018/wp1/ECE-TRANS-WP1-165e.pdf)の一部に、日経Automotiveが翻訳(右)を加えた。
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 だが、明治大学専任教授の中山幸二氏によれば、警察庁は2018年11月ごろ、ジュネーブ道路交通条約の改正の行方を見守っていくというスタンスだった。それが一転、警察庁は2018年12月、道路交通法の改正試案を出す。そこに大きく影響したと見られるのが、日本政府の意向。日本政府は当時から、高速道路での高度な自動運転(レベル3以上)の市場化や、限定地域における無人自動運転移動サービス(レベル4)の市場化などを目標として掲げていた(図4)。日本政府の強い意向が、警察庁を突き動かしたとみられる。

図4 日本政府が掲げる自動運転に関する実現目標
図4 日本政府が掲げる自動運転に関する実現目標
国土交通省の資料を基に日経Automotiveが作成した。
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