自動車メーカーの競争の舞台が、ハードウエアからソフトウエアにシフトしている。象徴的なのが、“ビークルOS"と呼ばれる車載ソフト基盤である。ドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)は「vw.OS」を実用化し、トヨタ自動車グループは「アリーンOS(Arene OS)」を開発中だ。これらビークルOSを軸に、クルマの新たな主導権争いが始まった。
「世界で最もコスト効率が良く、信頼性の高いハードウエア生産方式であるトヨタ生産方式(TPS)を、ソフトウエアの分野でも実現する」。トヨタ自動車グループで自動運転ソフトを開発するTRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント)CEO(最高経営責任者)のジェームス・カフナー(James Kuffner)氏注1)は、同社が目指す方向性をこう説明する(図1)。
ソフト開発を効率化する中核技術が、現在開発中の車載ソフト基盤「アリーンOS(Arene OS)」である。米アップル(Apple)のソフト基盤「iOS」や、米グーグル(Google)の「Android」のように、世界中の開発者がアリーンOS向けにソフトを開発できるようにする。
開発したソフトは、アリーンOSを搭載した車両なら、ハードの違いによらず、動作する。カーナビのようなスマホアプリに近いものから自動運転ソフトまで、クルマ向けの幅広いソフトを効率的に開発できる。
ただし、車両制御を伴うソフトが本当に安全に動作するのか、サイバー攻撃に耐えられるのか、といった点はさらに検証する必要がある。スマホアプリでは不具合や脆弱性の報告は日常茶飯事だが、これがクルマで起きると人命に関わるからだ。このため、現状では自社ソフトを効率的に開発する仕組みとしてアリーンOSを整備しているとみられる。
ドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)の車載ソフト基盤「vw.OS」も、考え方は同じだ(図2)。vw.OSは、2020年夏に発売する新型電気自動車(EV)「ID.3」や、同年内に発売するSUV(多目的スポーツ車)タイプのEV「ID.4」などに順次搭載する。将来はVWグループの全ブランドに展開するほか、外販も視野に入れる。