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新型コロナウイルスが次世代トレンド「CASE」を取り巻く状況を変えた。欧州から動き出した復興策「グリーン・リカバリー」は電動化(E)を後押しする。逆風なのがシェアリング(S)だが、ホンダは新しい市場を見つけた。CASEの4領域に満遍なく取り組む考えを捨て、“濃淡"をつける段階に突入した。

 2020年7月1日、歴史が動いた。米Tesla(テスラ)の時価総額がトヨタ自動車を抜き、世界の自動車メーカーの首位に立った(図1)。1日終値ベースのテスラの時価総額は2076億ドル(約22兆3000億円)で、同日のトヨタの時価総額(21兆7185億円)を上回った。

図1 テスラの時価総額がトヨタを抜いて業界トップに
図1 テスラの時価総額がトヨタを抜いて業界トップに
自動車業界で長年首位を維持してきたトヨタの時価総額を、2020年7月1日に超えた。テスラは新型コロナで変化したニーズを捉え、株式市場や消費者から将来性を評価された格好だ。図は、Bloombergのデータを基に日経Automotiveが作成。
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 年間の車両販売台数で30倍近い開きがあるテスラとトヨタ。それにも関わらず時価総額で逆転した大きな要因は、テスラの将来性を市場が評価したことだ注1)。「アフターコロナ」の時代に向けて、「電気自動車(EV)を含め、社会性や公共性を重視する『社会的インパクト投資』が拡大する」(インテル事業企画・政策推進ダイレクターの野辺継男氏)という波をいち早くつかんだ(別掲記事参照)。

注1)テスラの時価総額に対しては“過剰評価”との見方もある。それでも、同時期に中国のEV大手である比亜迪(BYD)や燃料電池(FC)トラックを手掛けるスタートアップの米Nikola(ニコラ)など、電動車両を得意とする企業が軒並み時価総額を拡大させている事実を踏まえると、新型コロナを境に社会のニーズが変化したのは間違いないだろう。

 自動車業界の次世代トレンドであるCASEのうち、追い風が吹き始めた電動化(E)とは対照的に、勢いを失っているのがシェアリング(S)だ。Sとの組み合わせで検討されてきた自動運転(A)も戦略の転換が求められる。コネクテッド(C)は、自動車メーカー各社がOTA(ソフトウエアの無線更新)機能の強化や車載データを活用する方針を打ち出しており、普及は進むだろう。

欧州主導の「グリーン・リカバリー」

 EVの普及を後押しするのが、欧州を中心に機運が高まっている「グリーン・リカバリー」(緑の復興)の取り組みだ。新型コロナからの景気回復と気候変動という2つの対策を同時に進める政策である。欧州委員会が20年5月に提案した新型コロナからの復興基金「Next Generation EU(次世代EU)」は、融資の条件に事業の脱炭素化を加えた。

 資本市場から7500億ユーロ(約88兆円)もの大金を調達して事業再生や技術開発を支援するのは、アフターコロナの時代に向けた覇権争いの表れでもある。気候変動対策の官民組織である気候変動イニシアティブ(JCI)で代表を務める末吉竹二郎氏は「欧州が先手を打って主導権を握ろうとしている。このままでは日本は大きく後れをとる」と危機感をあらわにする(別掲記事参照)。

 欧州は復興基金の設立に先立って、脱炭素を柱とする経済対策としてEVを優遇する政策を始めた(図2)。ドイツやフランスなどはEV購入時の補助金を増額。ドイツはEVの普及環境を整えるため、ガソリンスタンドにEV充電器を設置することを義務化した。

図2 欧州や中国はEVの普及と経済再生を同時進行に
図2 欧州や中国はEVの普及と経済再生を同時進行に
特に欧州では、「グリーン・リカバリー」(緑の復興)の象徴例としてEVを据える。中国はEV一辺倒から、HEVも優遇する方針に切り替えた。
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