新型コロナウイルスで自動車メーカーや部品メーカーの業績は軒並み悪化した。浮き彫りになったのが、車両販売に頼ってきたビジネスモデルを見直す必要性だ。より一層の選択と集中が求められる状況の中で、トヨタ自動車は“街づくり"を断行。ドイツDaimler(ダイムラー)などはソフトウエアを新たな収益源にすべく動き出した。
米Google(グーグル)の野望の1つが、新型コロナウイルスの感染拡大によってついえた。スマートシティー開発を手掛ける兄弟会社のSidewalk Labs(サイドウォークラボ)は2020年5月、カナダ・トロント市で進めていた都市開発から撤退すると発表した。
サイドウォークラボは、グーグルの親会社である米Alphabet(アルファベット)の傘下企業の1つ。17年からトロント市でスマートシティーの計画を進めてきた。公開した都市の完成イメージには、飲食店や公園、高層マンションなどを集めた港湾地区に、多くの人が密集する様子が描かれている(図1)。
トロント市の計画から撤退した大きな要因が、新型コロナによる都市に対するニーズの変化だろう。新型コロナは人や企業が密集する大都市を中心に猛威を振るったからだ。
「我々の健康が“緊急事態"にさらされたことで、未来に向けて都市を再考することの重要性を実感している」。サイドウォークラボ会長兼CEO(最高経営責任者)のDaniel L. Doctoroff氏は、潮目の変化を感じ取り、早々に止血の一手を打った。
一方、ライバルの撤退を横目に、スマートシティー開発の断行を決めたのがトヨタ自動車だ。21年初頭に着工予定の実証都市「Woven City」(ウーブン・シティ)について、同社代表取締役の小林耕士氏は「投資規模をいささかも減らす必要はない」と強調する(図2)。
トヨタが都市開発に乗り出すのは、自動車の製造・販売に次ぐ、新たな収益源を構築するためだ。新型コロナの影響で、同社の21年3月期(20年度)の営業利益は前年に比べて8割減になる見込み。それでもWoven City構想の手を緩めないのは、クルマ単体を造って販売する従来のビジネスに限界を感じているからだろう。
その危機感はむしろ、新型コロナで強まったともいえる。トヨタ社長の豊田章男氏は「新しいトヨタの未来の種まきに関してはアクセルを踏み続ける」と強調する。内燃機関車の大量生産に頼った戦略から脱却し、新たなビジネスモデルを模索する動きが自動車業界で本格化してきた。