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TCOでエンジン車並みを実現

 「多くの市場において、EVのコストは近年、取得と運用の両面で大幅に安くなっている」。こう強調するのが、VWである。同社によれば、電池コストの低下、生産の効率化、政府による補助金などの支援策の存在、ガソリンや軽油といった燃料代に対する相対的な電気代の安さがその原動力になっている。

 実際、同社は、ID.3の最量販モデル「ID.3 Pure」で戦略的な値付けを打ち出している。欧州でのその車両価格は、3万ユーロ(1ユーロ=126円換算で378万円)未満。同社の従来EV「e-ゴルフ」の3万1900ユーロ(同402万円)と比べて6%安い。しかも、ID.3 Pureの電池容量は48kWh、航続距離(欧州のWLTP)は330km注2)。e-ゴルフの同35.8kWh、同232kmと比べて大幅に充実している。航続距離1km当たりの車両価格は、e-ゴルフより34%も安い。日産のリーフ(欧州仕様、電池容量40kWh、WLTP航続距離270km)との比較でも同価格は16%安い。

注2)電池容量の48kWhは「Electric Vehicle Database」(https://ev-database.org/)の推定値。VWが公表している利用可能電池容量は45kWh。

 こうした低価格化のインパクトの大きさは、エンジン車との比較でさらに明白になる(図5)。VWによれば、ID.3 Pureと同格のガソリン車は「ゴルフライフ1.5L TSI」。ID.3 Pureは、同ガソリン車に比べて取得コストは3360ユーロ(同42万3360円)ほど高いが、ドイツではEVには「環境ボーナス」と呼ばれる補助金が出る。これを加味すると、ID.3 Pureと同ガソリン車の取得コストは逆転し、ID.3 Pureは同ガソリン車よりも3210ユーロ(同40万4460円、20年3月時点の算定額)ほど安くなる。

図5 ID.3およびID.3と同格のエンジン(ICE)車の取得コスト比較
図5 ID.3およびID.3と同格のエンジン(ICE)車の取得コスト比較
環境ボーナスを加味すると、ID.3の方が安くなる。この環境ボーナスは20年3月時点の算定額。ドイツは同年7月に環境ボーナスの増額を実施している。ACTは「アクティブシリンダーマネジメント」、OPFは直噴ガソリンエンジン用のPM(粒子状物質)フィルターのこと。SCRはここではディーゼルエンジン用の窒素酸化物除去触媒として使われる尿素SCR(選択的還元触媒)システムを指す。VWの資料を基に日経Automotiveが作成した。(画像の出所:VW)
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 しかも、EVはもともと運用コストではエンジン車よりも有利である。VWによると、ID.3の方が同ガソリン車よりも運用コストが1カ月当たり70ユーロ(同8820円)安い(図6)。仮に1カ月当たりの運用コストが70ユーロ減るとしたら、環境ボーナスを加味しなくても、取得コストの差を4年で相殺できる。

図6 ID.3と同格のエンジン(ICE)車のTCO比較
図6 ID.3と同格のエンジン(ICE)車のTCO比較
VWの試算では、ID.3の方が運用コストが1カ月当たり70ユーロ安くなる。電気料金を31ct/kWh(同39円6銭)、ガソリン価格を1.46ユーロ/L(同183円96銭)、同格のICEのNEDC燃費を5.0L/100kmと仮定したとみられる。VWの資料を基に日経Automotiveが作成した。(画像の出所:VW)
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 「EVの所有コストは西欧ではディーゼル車に近い」。20年6月30日にオンラインで開催したe-C4の発表会でこう語ったのが、グループPSAのシトロエンブランドCEOであるVincent Cobee氏だ。グループPSAは、e-208、e-C4、DS 3 クロスバック E-TENSEと19年後半から20年にかけてEVを意欲的に市場投入するグループの1つだ。

 そんな同グループがEVに関連する戦略として掲げるのが「パワー・オブ・チョイス」である。簡単に言えば、EVへの適用も前提に置いた共通のPFを使い、同一車種にEV、ガソリン車、ディーゼル車といった異なるパワートレーンのモデルを横並びで用意するという戦略だ。パワートレーン横断で同じPFを使うことでEVの低コスト化とラインアップの拡充を図る。EV専用PF「MEB」を開発し、アウディやスペインSEAT(セアト)、チェコSkoda Auto(シュコダ)、VW商用車などのVWグループ、および米Ford Motor(フォード・モーター)とPFを共用することでEVの量産規模を拡大し、低コスト化を推し進めるVWの戦略とは対照的だ。詳しくは、Part2で紹介する