全3267文字
PR

エンジン車には必須でなく、コストは現行システムの数倍もかかる。それでも自動車メーカーが積極採用を始めたのが電動油圧ブレーキである。現状の搭載率は10%ほどだが、2030年には50%まで高まりそうだ。自動ブレーキ機能の強化や負圧不足の解消など、採用する利点は多い。

 「電動油圧ブレーキの有無で、制動能力は大きく変わる。特に、交差点での飛び出しなど、シビアなシーンでの違いがはっきり出てくる」。SUBARU(スバル)で先進運転支援システム(ADAS)「アイサイト」の開発責任者を務める柴田英司氏(同社第一技術本部自動運転PGMゼネラルマネージャー兼先進安全設計部担当部長)は力を込める。

 同社が2020年11月末発売の新型「レヴォーグ」から導入した「新世代アイサイト」。ステレオカメラの刷新に注目が集まるが、実はADASの性能を引き上げるためブレーキ部品にも手を入れた。それが、スバルとしては初採用の電動油圧ブレーキである(図1)。エンジン車では必須でない高コストな部品を搭載したのは、従来のブレーキシステムが「反応速度や制動力の点で限界を迎えつつあった」(スバルシャシー設計部主査の佐藤司氏)ためだ注1)

図1 自動ブレーキ性能を高めるために電動油圧ブレーキを採用
図1 自動ブレーキ性能を高めるために電動油圧ブレーキを採用
スバルの新型「レヴォーグ」は、交差点での自動ブレーキ性能を向上させた。新型のステレオカメラを導入すると同時に、ブレーキシステムも刷新した。(出所:スバル)
[画像のクリックで拡大表示]
注1)従来のブレーキシステムの限界は、通常の制動ブレーキと、緊急時の自動ブレーキの2つ。制動ブレーキでは、燃費改善のためエンジンの気筒休止などが増えブレーキ用の負圧が得られにくくなっていた。自動ブレーキでは、従来のESC(横滑り防止装置)ではブレーキ圧を上げにくく、交差点などへの対応がしにくかった。電動油圧ブレーキにすることで、ブレーキ性能を高めることが可能になる。

 普及価格帯のガソリン車に電動油圧ブレーキを搭載する動きは他にもある。ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)は、19年10月に発売した8代目の「ゴルフ」で電動油圧ブレーキを全面採用した(図2)。7代目ゴルフでもハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)のモデルではブレーキを電動化していたが、ガソリン車まで適用範囲を広げたのは今回が初めてだ。

図2 VWの新型「ゴルフ」は幅広いパワートレーンのブレーキ部品を共通化
図2 VWの新型「ゴルフ」は幅広いパワートレーンのブレーキ部品を共通化
画像は新型ゴルフのガソリンエンジン仕様車の部品構成を示したもの。VWは48V簡易HEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)を含め、電動油圧ブレーキを搭載した。(出所:VW)
[画像のクリックで拡大表示]