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日産自動車は新型「ノートe-POWER」に、1.5GPa級の冷間プレス材を初適用した。ただ冷間プレス材は、強度が高くなると成形性が悪くなるのが悩みである。プレス成形後の反りなどが大きくなり、寸法精度が悪くなるといった課題もある。日産は素材とプレス成形法の改良によって、こうした壁を乗り越えた。

 日産自動車の新型ノートe-POWER(以下、新型車)は、日仏3社連合(アライアンス)のBセグメント向けプラットフォーム(PF)「CMF(Common Module Family)-B」注1)を適用した(図1)。先代ノートe-POWER(以下、先代車)は、10年前に開発したA/Bセグメント向けPF「Vプラットフォーム」を使用していた。

注1)現在、CMF-Bを適用する車種には、フランスRenault(ルノー)の小型車「ルーテシア(Lutecia)」と小型SUV「キャプチャー(Captur)」、日産の小型SUV「ジューク(Juke)」の欧州仕様車がある。今回の新型車はCMF-Bを適用する車種としてはアライアンスで4車種目、日産では2車種目となる。
図1 新型「ノートe-POWER」のボディー骨格
図1 新型「ノートe-POWER」のボディー骨格
日仏3社連合のBセグメント向けPF「CMF-B」を適用した。(出所:日産自動車)
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 先代車のアッパーボディーに使う高張力鋼板は、引っ張り強さが440MPa級の冷間プレス材が中心だった。一部に590MPa級も使用する。「超高張力鋼板」(780MPa級以上)の使用比率(質量比、以下同じ)はゼロである。

 先代車のPFはサイドシルに980MPa級、フロア・クロス・メンバーに780MPa級の冷間プレス材を適用する。超高張力鋼板の使用比率は13%だが、ホットスタンプ(高張力鋼板の熱間プレス材)は使っていない(図2)。

図2 先代車のボディー骨格
図2 先代車のボディー骨格
超高張力鋼板の使用比率はアッパーボディーがゼロ、PFが13%にとどまる。日産自動車の資料を基に日経Automotiveが作成。
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超高張力鋼板の使用比率を増やす

 これに対して新型車では、超高張力鋼板の使用比率をアッパーボディーで22%、PFで35%に高めた。またPFの一部の部位には、1.5GPa級の冷間プレス材を使った。アッパーボディーとPFへの超高張力鋼板の使用比率を増やすことで、ボディー骨格の質量増加を抑えながら、前面と側面の衝突安全性を向上させた注2)

注2)新型車はCMF-Bを適用することで、ボディー骨格のねじり剛性を30%高めた。「エンジンマウントやサスペンションの取付部の剛性を高める」、「エンジンルームの騒音を乗員室に入れない」といった対策を施し、NVH(騒音・振動・ハーシュネス)性能も向上させている。

 前述した1.5GPa級の冷間プレス材を使用した部位は、前部フロア・クロス・メンバーである。鉄鋼メーカーのJFEスチールと、自動車用プレス部品メーカーのユニプレスと共同開発した。素材となる冷間プレス材の開発はJFEスチール、同プレス材の加工はユニプレスが担当した(図3)。

図3 新型車のボディー骨格
図3 新型車のボディー骨格
超高張力鋼板の使用比率をアッパーボディーで22%、PFで35%に高めた。日産自動車の資料を基に日経Automotiveが作成。
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 一方、後部のフロア・クロス・メンバーやフロアフレームは、1.5GPa級のホットスタンプを使う。小型車のボディー骨格に、1.5GPa級の冷間プレス材に加えて、1.5GPa級のホットスタンプを使ったのは、日産としては今回の新型車が初めてである。

 e-POWER用のリチウムイオン電池パックは、前部と後部のフロア・クロス・メンバーと左右のフロアフレームで囲まれた部分に搭載する。これらの部位に1.5GPa級の冷間プレス材とホットスタンプを適用したのは、前面衝突や側面衝突の衝撃から同電池パックを守る狙いもある。