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米Tesla(テスラ)が2020年に車両への搭載を始めた「Octovalve(オクトバルブ)」。その役割は、電気自動車(EV)の熱マネジメントシステムの“司令塔”だ。複雑な機構に目を奪われるが、オクトバルブの真の価値はクルマを購入した後の進化にある。ソフトウエア時代の熱管理システムの在り方を示唆する重要部品の全体像が見えてきた。

 「こんな部品は見たことがない」。年間約80台の新型車を分解・調査するベンチマーキング会社であるフランスA2Mac1の日本法人でマネージングダイレクターを務める蜷川大地氏は驚きを隠さない。同社の創業は1997年で、900台を超える車両を分解した経験を持つ。2020年に分解した車両から出てきた部品の中で、ひときわ異彩を放っていたのがテスラが2020年に量産を開始したEV「モデルY」に搭載されていたオクトバルブだった(図1)。

図1 テスラの「Octovalve(オクトバルブ)」
図1 テスラの「Octovalve(オクトバルブ)」
電気自動車「モデルY」に初搭載した。熱を運ぶクーラントを8方向に分配する。(出所:A2Mac1)
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 オクトバルブは、空調やリチウムイオン電池、パワートレーン、ECU(電子制御ユニット)など、冷却・加温が必要な部品の熱マネジメントの中核を担う部品だ。すべての冷却・加温の回路をオクトバルブとつなげ、熱を運ぶ水(クーラント)が流れる経路を条件に応じて切り替える。モデルYに続き、「モデル3」も20年の部分改良で同部品を採用した。

 クルマは一般に、空調やリチウムイオン電池など、部品ごとに独立した冷却・加温の回路を備える。モーターの排熱を暖房に活用できるように回路を組んだ例としてはドイツAudi(アウディ)のEV「e-tron」がある(図2)。しかし、車両のシステム全体で熱を最適管理する構成は「過去に例がない」(蜷川氏)。

図2 アウディ「e-tron」の熱マネジメントシステムの全体像
図2 アウディ「e-tron」の熱マネジメントシステムの全体像
モーターの排熱を暖房に活用できるように回路を組んでいるが、車両のシステム全体で熱を最適管理するようには構成されていない。(出所:A2Mac1)
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 オクトバルブの内部には8つの流路がある。その名がラテン語で「8」を意味する「オクト」に由来するのはこのためだ。オクトバルブの内部は2層構造で、各層はクーラントを4方向に分配する(図3)。これにつながる配管は9本で、1本の配管は閉じた状態となる。オクトバルブには4つのポジション(位置)があり、これによって12種類の加温モードと3種類の冷却モードを切り替えられる。

図3 オクトバルブがクーラントの流れを集中制御
図3 オクトバルブがクーラントの流れを集中制御
オクトバルブにつながる配管は9本(①~⑨)ある。部品の温度や外気温などの条件に応じて弁の向きを変えることで、12種類の加温モードと3種類の冷却モードを実現できる。配管のうち、図中の⑤か⑥のどちらかは閉じた状態になる。(出所:A2Mac1)
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 例えば、気温が低い気候で走行しているときは、電動アクスルやリチウムイオン電池から発生する熱を暖房に伝えるようにする。停車して急速充電する際は、電池が過熱しないように熱をラジエーターに流して外気に放出する。気温や各部品の温度状況などに応じて使い分ける15種類の加温・冷却モードを、オクトバルブの位置によって制御するのだ。

 中央集中型とも呼べるオクトバルブを使った熱マネジメントシステムの利点の1つは、部品点数の削減だ。モデルYの熱マネジメントシステムを構成する部品の点数は72個で、質量は33.1kg。ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン)のEV「ID.3」は部品点数が78個で質量は42.5kgだったというから、これよりも少なく、軽い注1)

注1)A2Mac1の調査によって、フランスPeugeot(プジョー)の小型車「e-208」やドイツMercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)の「EQC」など、他社のEVよりも「シンプルな部品構成の熱マネジメントシステムを実現している」(蜷川氏)と分かった。