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分散から統合制御へ、大きな転換期を迎える電気自動車(EV)の熱マネジメントシステム。日米欧の大手自動車メーカーから中国の新興EVメーカーまで、こぞって熱と向き合い始めた。こうした変化を好機とすべく、部品メーカーは新しいシステムや技術の提案を急ぐ。デンソーやマレリは、2025年ごろに統合型システムの実用化を狙う。

 「ずっと裏方だったが、ようやく表舞台に出るチャンスが巡ってきた」―。こう語るのは、ある部品メーカーの熱技術者だ。短い航続距離や長い充電時間など浮き彫りになったEVの課題が、“技術の優先順位”を変えつつあるという。後回しだった熱対策が、EVの商品力を左右する重要部品に位置付けられ始めた。

 こうした変化は、2021年4月に開催された「上海モーターショー2021」でもはっきりと表れた。例えばデンソーは、EV全体の熱や電力を総合的に管理するエネルギー・マネジメント・システムを展示した(図1)。ドイツMahle(マーレ)は、リチウムイオン電池を冷却する金属プレートをはじめとする熱対策技術をブースに並べた。パワートレーンを統合して熱損失や配管を減らす取り組みも目立った。個別部品の部分最適から統合制御へと変化する潮目を読み、部品メーカー各社は新しい技術提案を加速させる。

図1 デンソーが開発中のエネルギー・マネジメント・システム
図1 デンソーが開発中のエネルギー・マネジメント・システム
パワートレーンと電池、空調の熱や電力を統合管理するシステムの実現を目指す。図の右側は、部品およびシステムを設計する際に実施した、モデルベース開発によるシミュレーションの例。(出所:デンソー)
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 デンソーが開発中のエネルギー・マネジメント・システムは、パワートレーンと電池、空調の熱や電力を統合制御するもの。「3つの価値を提供し、25年ごろの実用化を目指す」(同社熱マネシステム開発部総合熱マネ開発室担当課長の大船悠氏)という。

 第1の価値が、航続距離の延長である。暖房の熱源をPTCヒーターから高効率なヒートポンプに変更することで、暖房を多く使う冬場に距離を約30%延長できるという。さらに、モーターやインバーターの排熱の再利用で、さらに5%長くできるとする。

 第2が充電時間の短縮だ。「真夏に急速充電しても(電池保護のために)充電が止まらないように、冷却性能を高めて従来の1/3の時間にする」(同氏)。冷凍サイクルと連携させることで冷却性能を高めて冷却水温を下げ、低い水温で電池を冷やすことで冷却量を増やす。

 第3が電池寿命の延長で、劣化の原因となる温度上昇と冷却のばらつきを抑えることで20%の延長を狙う。電池パックは10~40度の温度域に収まるように冷却・加温する。

 様々な部品を連動させて熱や電力を有効に利用するため、デンソーはシステム設計にモデルベース開発(MBD)を適用した。熱の動きを見える化することで、様々な条件での熱影響を素早く判断できる。定常状態だけでなく、手計算では困難だった過渡的な熱の挙動を把握できるのも大きな利点だ。