電池争奪戦が激しくなる中、競争軸は資源や材料の確保に変わりつつある。この機に乗じて欧州が打ち出すのは、電池リサイクル規制だ。資源争奪戦を優位に進めるとともに、東アジアに偏る電池供給網を欧州に引っ張り込む狙いがある。電気自動車(EV)の高電圧化にも着手し、中国勢や日本勢の強みをそぎ落としにかかる。
「標準的な航続距離の電気自動車(EV)や家庭用蓄電池は、LFP(LiFePO4、リン酸鉄)系に移行する」〔米Tesla(テスラ)CEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏〕―。
世界の自動車メーカーが2030年に向けてEVの開発に追い立てられるなか、中核のリチウムイオン電池の競争軸が変わり始めた。脚光を浴びるのが「徐々に消え去る」とみられていたLFP系リチウムイオン電池である。
テスラがLFP系の採用を世界に広げる計画を公表したのに加えて、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)グループや米Ford Motor(フォードモーター)などがLFP系を採用する方針を打ち出した。ゴールドマン・サックス証券の湯澤康太氏は「LFP系の重要性は高まる」と見通す。30年ごろのEV用電池のうち、調査会社によって異なるがLFP系は2~4割を占める可能性がある。
LFP系は、中国電池メーカーが主に手掛けており低コスト品の印象が強い(図1)。日韓の電池メーカーが開発するNMC(ニッケル、マンガン、コバルト)系やNCA(ニッケル、コバルト、アルミニウム)系に比べてコストは2割ほど安いとされる一方、エネルギー密度も同程度低くなる。エネルギー密度を重視する移動体の電池として、LFP系はNMC系やNCA系にいずれ置き換えられると考えられてきた。
それが一躍注目を集めるのは、エネルギー密度の向上を後回しにしてでも、電池資源の確保や材料価格高騰への備えが重要になっているからだ。30年にかけてEVの急拡大が見込まれており、電池資源の枯渇が現実味を帯びてきた。LFP系の材料となる鉄は豊富で枯渇する可能性は低い。今後も価格が低く安定するとみられている。
一方でNMC系やNCA系の主要材料であるニッケルやコバルトの資源争奪戦は激しくなり、価格上昇が懸念されている。とりわけコバルトは採掘地が限られる上に、児童労働の問題などがささやかれる。その削減は電池各社の主要命題になっている。ニッケルは比較的豊富な資源のはずだが、それでも30年にかけて「不足する」(国内資源会社の技術者)との見立てが飛び交い始めた。
例えばVWは、EVの価格帯に応じて3種類の電池を使い分ける方針である。低価格車にLFP系、量販車にマンガン系を採用する(図2)。NMC系などは高性能車に限るようだ。