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トヨタ自動車傘下で自動運転ソフトウエアを開発するウーブン・プラネット・ホールディングスは、車載ソフトの開発基盤(プラットフォーム)「Arene(アリーン)」を2025年にも実用化する。これまで車載ソフトは自動車メーカーや一部のサプライヤーしか開発できなかった。同社はアリーンを通じて、世界中の開発者が誰でも参加できるオープンなエコシステム(生態系)を目指す。

 「地球上で最もプログラミングしやすいクルマを実現する」。ウーブン・プラネット・ホールディングスSenior Vice President of Software PlatformのNikos Michalakis(ニコス・ミハラキス)氏は、アリーンの狙いをこう説明する(図1)。車載ソフト(車載アプリケーション)を開発する際の参入障壁を劇的に下げることで、世界中のソフト開発者が新たな価値を生み出せるようにする。「クルマのライフタイムバリュー(生涯価値)が高まり、自動車メーカーやサプライヤーにとってもプラスになる」(同氏)という。

図1 ウーブン・プラネット・ホールディングスのニコス・ミハラキス氏
図1 ウーブン・プラネット・ホールディングスのニコス・ミハラキス氏
イータス主催のセミナー「ETAS車載制御・組み込みシステム開発シンポジウム2021 ONLINE」の基調講演でアリーンについて解説した。(出所:イータス主催のセミナーから)
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 アリーンは、車両のさまざまな機能をAPI(Application Programming Interface)の形で利用可能にし、車載ソフトの開発を簡素化する取り組みだ。「ソフト開発者というのは、あまり複雑なことを好まない。シンプルな仕組みが必要」(同氏)とする。ソフトを車両に組み込むデプロイ(展開)の頻度をITソフト並みに高める。ただし、「安全性は絶対に損なわないようにする」(同氏)。ここが車載ソフトならではの難しさだという。安全性を担保するために、高度なシミュレーション技術を駆使し、テストや検証の精度を高める(図2)。こうした開発や検証のためのツール群は、クラウド上に構築し、世界中の開発者が利用できるようにする。

図2 安全性を担保するテストや検証に注力
図2 安全性を担保するテストや検証に注力
アリーンでは高度なシミュレーション技術によって、車載ソフトに求められる安全性を担保する。この仕組みがスマートフォン向けのアプリ開発などとは大きく異なるという。(ウーブン・プラネット・ホールディングスの資料を基に日経Automotiveが作成)
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 目指すのは、ソフトによる技術革新の連鎖だ。「プログラミングが簡単で、スケーラビリティーの高いプラットフォームがあれば、世界中から多くのソフト開発者が集まる。すると、そこに投資家も集まり、開発資金が投入される。それによって車載ソフトの開発が活発化し、クルマの新たな価値が生み出される」(同氏)。こうした技術革新の連鎖はIT分野では一般的だが、自動車業界ではこれからだ。

 同氏はアリーンを通じて、車載ソフトの新たなエコシステムを形成したいと意気込む。ソフトが主役となる次世代車の開発では、個社の戦いというよりは、エコシステム同士の競争になるからだ。アリーンと同様の仕組みを構築しているドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン)の「VW.OS」や、米Google(グーグル)の「Android Automotive OS」、同Apple(アップル)の「iOS」系など、競合エコシステムとの戦いに備える。

 「アリーンはトヨタが独占して使うものではない」(同氏)と強調する。トヨタ以外の自動車メーカーにも広く提供し、対応車両を増やすことで、アリーンを魅力的なプラットフォームに育てたい考えだ。トヨタとトヨタ以外で提供する機能に差を付けることも「できるだけしたくない」(同氏)と話す。