全固体電池の早期量産を懸念する見方が強まる中、自動車メーカーが既存の液系リチウムイオン電池(LIB)の延命に力を注ぎ始めた。注目を集めるのが「ドライ電極」である。米Tesla(テスラ)に続き、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)が開発に乗り出す。製造工程の抜本的な変更に踏み込み、電池事業の課題である莫大な設備投資と製造コストを削減できる可能性がある。
2022年1月、VWが米新興電池24M Technologies(24Mテクノロジーズ、10年設立)に25%出資したことを24Mが発表した。VWは日経クロステックに対して出資額が「数億ドル(数百億円)」と回答し、筆頭株主になったとみられる。VWは「ドライ電極」と呼ぶ24Mの技術を利用し、液系LIBの製造設備で大きな面積を占める乾燥炉をなくす狙いだ(図1)。
設備面積を40%削減し、さらに乾燥炉で使っていた大量のエネルギーが不要になると見込む。「投資を大幅に節約し、(電池製造の大きな課題となっている)製造時の二酸化炭素(CO2)排出量を削減できる」(VW)と期待をかける。20年代後半の大規模な量産を予定し、欧州の35年CO2排出量ゼロ規制を乗り越える切り札にする考えだ。
液系LIBの製造工程は一般に、金属化合物の正極材や黒鉛を主成分とする負極材に液状のバインダー(接着剤)などを混ぜてスラリーといわれる流動性のある状態にする。次にスラリーを金属箔に塗工し、乾燥するとシート状の電極になる。その後は形状を整えて積層し、電解液を注入して検査工程に流す。このうち乾燥炉は長さが50~100mに達する巨大な装置で、電池事業の投資額を莫大にし、CO2排出量が多くなる主因となっていた。
24Mの「ドライ電極」技術を採用すると、バインダーの代わりに電解液を正極材や負極材と混ぜることでスラリーとし、金属箔に塗工して電極にする。バインダーの液体成分を蒸発させる必要がなく、乾燥工程をなくせる。24MのCEO(最高経営責任者)である太田直樹氏は「電池製造工程を3分の1に短縮し、設備投資を6割以上削減できる」と主張する。24Mは流動性のあるスラリーを用いるため「半固体電池」と呼ぶ(図2)。