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「ポスト液系リチウムイオン電池(LIB)」の有力候補が、正極と電解質、負極の全てを固体で構成する全固体電池である。世界中で開発競争が激しくなる中、開発のポイントはどこにあるのか。自動車のカーボンニュートラル技術開発の動向に詳しいSOKENエグゼクティブフェローの古野志健男氏が最新動向を解説する。

 全固体電池にすると電解液をなくせるため、セルごとのケースが要らない。一つひとつの電池を直接積層(バイポーラ化)できるため、体積および質量エネルギー密度を高くできる。

 もちろん液漏れはなく、安全性を向上できる。温度特性にも優れる。セ氏-30度の極低温でも液系LIBと異なり凍結しない。液系LIBの場合、性能劣化するセ氏60度以上にならないように冷やさなければならないが、全固体電池では必要がない。高電圧化による急速充電耐性もある。加えて長寿命であると期待されており、世界中で研究が進んでいる。

 研究のポイントは多岐にわたる。高いリチウム(Li)イオン伝導度を示す固体電解質の材料構造を探すことや、充放電時に負極活物質が膨張・収縮することへの耐性を高めること、両電極と固体電解質の界面耐性を高めること、負極からのリチウム析出による短絡(デンドライト:樹枝状析出)を抑えることなどである。

 自動車用の全固体電池は、正極、電解質、負極の複数の微粒子を積層したバルク型である注1)。容量を大きくし、出力を高められるからだ。

注1)民生用に既に量産されているのが小型の薄膜型全固体電池である。集電体や負極、電解質、正極、集電体を基板上にCVD(Chemical Vapor Deposition)法やスパッタ法などの真空気相法により薄膜を堆積させて造るものだ。これらの製造法ではそれぞれの界面や粒子間の密着性が良く、界面の剥離がないために容量劣化が小さい。もっとも、電極が薄いために容量は小さくなる。

 バルク型全固体電池の実用化に向けて、主に研究されている固体電解質材料は硫化物系、酸化物系、ポリマー(高分子)系の3種類である。固体電解質は、常温で高いLiイオン伝導度を有することが重要である。

 全固体電池セルの基本構造は、正極と負極それぞれの活物質の粉体と固体電解質の粉体を混ぜて固めたものだ(図1)。両電極層で固体電解質だけの層を挟んでプレスすることでセルとなる。

図1 全固体電池の構成
図1 全固体電池の構成
正極と負極にも固体電解質の粉体を混ぜて固める。筆者資料を基に日経クロステックが作成した。
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