日産自動車と三菱自動車の軽自動車タイプの新型電気自動車(EV)は200万円台前半の価格を実現した。価格の引き下げに寄与したのが設計・開発面でのさまざまなコスト抑制対策である。原価改善活動を徹底し、「儲からない」とされるEVにおいて価格を抑えながら利益を確保した。今回の新型軽EVは、ホンダやスズキ、ダイハツ工業など競合各社のベンチマークになる。
日産自動車と三菱自動車は、軽自動車の新型電気自動車(EV)を2022年6月に発売した。車名は日産が「サクラ」、三菱自は「eKクロスEV」である(図1)。新型軽EVの開発は、三菱自と日産の共同出資会社「NMKV」(東京・港)が担当した。三菱自の水島製作所(岡山県倉敷市)で生産している。車両最低価格(消費税込み)はサクラが233万3100円、eKクロスEVは239万8000円だが、国の補助金注1)の対象になるため、100万円台後半の価格で購入できる。
EVの開発を巡っては、ホンダが小型SUV(多目的スポーツ車)タイプのEVを、300万円台で投入する計画を進めている。トヨタ自動車も小型EVで同水準の価格の実現を目指す。こうした開発動向を見ると、軽EVとしては少なくとも200万円台の車両価格を実現しないと普及させるのは難しい。
現行電動車のPFや部品を活用
そこで日産と三菱自は、今回の新型軽EV(以下、新型車)の最低価格を200万円台前半に抑えるために、設計・開発面と製造面でいくつかの対策を行った。EVは販売台数が増えないと利益が出ないとされてきたが、今回の新型車は販売台数が少なくても「1台当たりの利益を確保できている」と、日産オートモーティブテクノロジーの車両プロジェクト統括部で車両設計グループ主管を務める遠藤雅哉氏は明かす。
設計・開発面ではまず、日産の軽ガソリン車「デイズ/ルークス」や三菱自の同「eKシリーズ」に適用する軽自動車用プラットフォーム(PF)を使う。PFの共用でコストを抑えた。同PFはガソリン車とEVの両方に適用できるように開発したため、大きな改良を加えることなく、電動パワートレーンや電池パックを搭載できるという。
電動パワートレーンでは、インバーターは新型車に向けて新たに開発したが、駆動用モーターには、日産のシリーズ式ハイブリッド車(HEV)「ノートe-POWER」や、三菱自のプラグインハイブリッド車(PHEV)「アウトランダーPHEV」などに搭載する小型モーターを使った。減速機は日産のEV「リーフ」のものを流用した(図2)。
リチウムイオン電池は、中国系のエンビジョンAESCグループ(神奈川県座間市)から調達した。日産のリーフはAESCグループの電池を搭載しており、新型車もリーフと同じ電池を使う。このように、現行の電動車両と基幹部品をできるだけ共有することで、新型車の設計・開発コストの増加を抑えた。