日産自動車と三菱自動車は、軽自動車タイプの新型電気自動車(EV)をコストを抑えて造っている。EV専用ラインは設けず、現行の軽自動車用組み立てラインでガソリン車と混流生産する。製造ラインの改修を最低限に抑え、作業の平準化を図ることなどで生産効率の低下を抑えた。製造現場の取り組みは、電池パックの内製化といった新たな設備投資の負担も軽くした。
岡山県倉敷市にある三菱自動車の水島製作所では2022年5月から、日産自動車と三菱自が同年6月に発売した軽自動車タイプの新型電気自動車(EV)を生産している(図1)。国の補助金を活用すると、両車ともに100万円台後半の価格から購入できる。年間の販売台数は日産の「サクラ」が約5万台、三菱自の「eKクロスEV」は約1万台であり、両社は強気の計画を立てている。
価格の引き下げに寄与したのが、設計・開発面と製造面のコスト抑制対策である。設計・開発面では、軽ガソリン車用のプラットフォーム(PF)を活用したことに加え、両社の現行の電動車両とモーターや減速機、リチウムイオン電池などの基幹部品を共有したことなどが寄与した。
製造面ではコスト増加をできるだけ抑えるために、水島製作所にEV専用ラインを設けず、現行の軽自動車専用ラインでガソリン車と新型車を混流生産している。同製作所ではこれまでも、日産と三菱自の軽ガソリン車を混流生産してきた注)。今回、ここに新型車2車種の生産を加えた。
新たな作業が発生、電池パックは内製化
ただ、ガソリン車とEVを同じ生産ラインで造るために、いくつかの新たな作業が必要になった。具体的には、(1)モーターなどの電動パワートレーンをフロントフード下に組み付ける(2)電池パックを車両の床下に搭載する─といった作業である。
また今回の新型車に搭載する電池パックは、水島製作所内で内製化した。同パックの品質(信頼性)を高めるためである。電池モジュールは中国系のエンビジョンAESCグループ(神奈川県座間市)から調達しているが、(1)電池ケース(底板と上蓋)の製造(2)電池ケース内への電池モジュールの組み付け(3)最終製品(電池パック)に仕上げる作業は、同製作所内で行っている。これらの作業については、新たなラインを設けて対応した。
ガソリン車と新型車を混流生産するために新たな作業を行うと、これまでより生産効率が落ちる恐れがある。また、電池パックの内製化に関しては、新たな設備投資が必要になった。製造コストを増加させるこれらの課題に、水島製作所の現場ではどう対応したのか。その具体的な取り組みを見ていく。