車両運動制御を高度化させ、電動車の走りを進化させる自動車メーカー。自動車部品メーカーでもそれに向けて意欲的に取り組むところが増えてきている。統合制御を適用すれば状況に応じてより適したアクチュエーターが使える。操作系とアクチュエーターを機械的に切り離すバイワイヤ化はそんな統合制御にベストな環境を提供する。
ベストな組み合わせで車両運動を制御できることが1つの利点―。こうした考えから車両運動の統合制御に取り組んでいるのが、アイシンである。
「曲がるという点では、トルクベクタリングは後輪操舵(そうだ)にはかなわない。だが、トルクベクタリングは応答性が高い。それぞれのアクチュエーターの得手不得手を考慮し、状況に応じて得意な部分を使っていく」(同社の技術者)。
旋回加速でもアンダーステア抑制
そんなアイシンが開発を進めているものの1つが、コーナリングで速度を上げていったときに発生するアンダーステア(コーナリングで狙ったラインよりも外側に膨らんでしまう現象)を抑制する制御技術だ。左右の後輪を個別のモーターで駆動するトルクベクタリングユニットを搭載してこれを実現する。トヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」の「RX」をベースに試作車を造り、開発を進めている(図1)。
同試作車では、前輪側に最高出力100kWのモーターを1つ、後輪側に同70kWのモーターを2つ搭載している。同社によれば、クルマは通常、コーナリングにおいて加速すると外側に膨らむように、すなわちアンダーステア気味になるように設計されている。加速に伴って、車両が狙ったラインより内側に入っていくことは、安全上の観点から一般には受け入れられないためだ。そのため、運転者はコーナリングでは速度が上がるにつれてステアリングホイールを切り増さなければいけなくなる。
同試作車では、前輪および左右の後輪のモーターを協調制御することで、そうした切り増しを不要にしている。山道で加速しながらコーナーをぐっと曲がっていくときなど、運転者はステアリングホイールを固定したまま、アクセルペダルを操作するだけで済む。運転操作の手数が減り、運転の快適性が上がる。
制御しているのは、前輪および左右の後輪のモーターの、駆動力と、回生ブレーキによる制動力である。それらを適切に制御することで、アンダーステアを抑制し、ステアリングホイールの切れ角を一定にしたまま、行きたいと思ったラインへ加速したまま曲がれるように進化させている。
アイシンによれば、この試作車ではまだモーターの制御とブレーキの制御を協調させていない。だが、ブレーキや後輪操舵システム、サスペンションをモーターと統合制御することを視野に入れている。カー・ナビゲーション・システムとの協調も念頭に置く。
同試作車では、前後のトルク配分を0:100~100:0で変化させられる。基本的には、定常状態は50:50の前後トルク配分とし、加速時は後ろ側に荷重が寄るので後ろ側の配分を増やす。減速・制動時は前側に荷重が寄るので前側の駆動力または回生量を増やす。
ちなみに、同試作車においては、ステアリングホイールの切れ角を一定にしたままで曲がれるのは、40km/hくらいまでだ。運転者にクルマの限界を知らせるための配慮で、あえて外側に膨らませることで注意を促す。
前述の技術者によれば、開発工数を減らせることも統合制御の利点だ。アクチュエーターごとの制御では、どれか1つを変更すると、その影響が他にも及ぶ恐れがある。統合制御では、さまざまなアクチュエーターをどう動かすのがベストかを考え、そのまとめ役も存在する。設計変更の頻度や手間を減らせる。