マツダの新型「CX-60」は、同社の新プラットフォーム(PF)「ラージ」を初適用した。ラージPFの利点を生かしてボディー骨格の構造を改良し、全方位の衝突安全性能を強化した。同社は事故分析などの結果を基に車両全体の衝突安全性能を高める研究開発を加速させる。CX-60に適用した高強度ボディー骨格の開発は交通死亡事故ゼロを目指す取り組みの一環である。
マツダの新世代商品群には、横置きエンジン・FF(前部エンジン・前輪駆動)向けの「スモール」PF(以下、スモールPF)を適用する車両と、縦置きエンジン・FR(前部エンジン・後輪駆動)向けの「ラージPF」を適用する車両がある。このうちラージPFを適用する中型SUV(多目的スポーツ車)「CX-60」では、全方位(前面・側面・後面)の衝突安全性能をさらに進化させた(図1)。
前面衝突では、あらゆる方向からの衝突に対してエネルギー吸収効率を最大化し、衝突する相手車両への加害性を抑制した。ラージPF適用車は、スモールPF適用車よりも車両寸法が大きく車両質量が重い。衝突したときに相手車両(特に小型車)への加害性が増す可能性がある。
前者のエネルギー吸収効率を高めるために、前面衝突対応ではメインとアッパー、ロアの3本のフロントフレームを設けて、ロードパス(衝突荷重の伝達経路)を増やした。こうしたマルチロードパス構造は、スモールPF適用車と共通である。
フロントフレームを直線状に
ただ、前述したようにラージPFとスモールPFでは、エンジンの置き方が異なる。ラージPF適用車はエンジンが縦置きになるため、3本のフロントフレームを直線状にできた。スモールPF適用車や従来のPF適用車はエンジンが横置きであるため、同フレームは直線状になっていなかった。
フロントフレームに屈曲部があると、そこに衝撃荷重が集中しやすい。同フレームが直線状であれば、衝撃荷重を効率的に後部に逃がせる。また、フレームが直線状になると軸方向への荷重の伝達率が上がるため、軽量化にもつながる(図2)。
フロントフレームを直線状にしたことで、同フレームを軸方向に圧縮できるようになった注1)。フレームを圧縮して潰し、衝突エネルギーを吸収する仕組みである。スモールPF適用車の場合は、フレームを曲げて吸収させていた。マツダ車両開発本部衝突性能開発部で側面・後面衝突安全開発グループのアシスタントマネージャーを務める辻 大介氏は、「エネルギー吸収効率は、曲げる場合の2倍に高まる」と述べる。
さらに、前部バンパーのレインフォースメント(補強材)を外側に延ばし、前面衝突時に斜めから入った荷重をフロントフレームに伝えやすくした。