「アライアンスは結婚のようなもので、いいときもあれば悪いときもある」―。フランスRenault(ルノー)のトップは、日産自動車と歩んだ24年間をこう表現する。自動車業界をよく知る識者や元日産の技術者は「新たな船出」をどう受け止めたか。彼らの声から、日産やルノーが“結婚生活”で抱えてきた課題や今後の方向性が見えてきた。
ゴーンが残した2つの遺産
提携見直しの大きな目的は、Carlos Ghosn(カルロス・ゴーン)氏のレガシー(以下、ゴーンの遺産)を取り除くことだ。2023年2月6日に英ロンドンで開いた共同会見で、ルノーグループCEO(最高経営責任者)のLuca de Meo(ルカ・デメオ)氏は「約43%から15%への出資比率引き下げではなく、(日産に)影響を与えられない0%から15%への引き上げだ」と語った。
実際、ルノーは約43%もの日産株を持っていても、何も制御できていなかった。制御できない理由は、日産とルノーが結んだ「改定アライアンス基本合意書(RAMA)」にある。
2015年の第3次改定でゴーン氏は、「ルノーやフランス政府は日産の経営に介入しない」と決めた。そして、これを破れば「日産独自の判断でルノー株を買い増せる」という強い条件をつくった注)。日産もルノー株を15%保有しているが、(フランス法による制限で)議決権がない。だからゼロとゼロ。こんな関係ではうまくいくはずがない。
もう1つ、ゴーンの遺産として日産とルノーを苦しめてきたのがIP(知的財産)だ。ゴーン氏は両社のIPを全く色分けせず、アライアンスのものだからお互いに自由に使用できるとした。
この状態を整理しないと、お互いに新しいパートナーと提携できない。その足かせが表面化したのが、2019年にあったルノーと欧米FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)の統合交渉だった。破談に終わった大きな理由がIPの問題だ。
ルノーとFCAが共同開発を進める中で、日産のIPが使われる可能性がある。このときに日産側がIPの使用に「待った」をかけると開発は進まなくなる。こうした問題が顕在化し、ルノーはFCAとの統合というカードを失った。あの瞬間から、ルノーは日産との関係を何とかしないと企業として存続できないという感覚になった。
日産にとっても、IPを整理しないと同社のコア市場である中国や米国で新しいパートナーと組みづらい。この点で、今回の交渉で白黒付けられたのは大きな進展といえる。(談)