防耐火性能を高めるだけでは、戸建て住宅火災による死亡者数を減らせない――。日本建築学会の「住宅の火災安全小委員会」はこう訴える。住民の命を守るには、安全に避難できる経路を考えておく必要がある。同小委員会が示す対策を伝える。
戸建て住宅の火災で、住民が死亡する事故は珍しくない。実は、住宅火災の発生件数は23年前と比べて6割以上減少しているのに、死者数はほとんど変わっていない。高齢者の死者数に限ると、3割以上増加している状況だ〔図1〕。
事態を問題視した日本建築学会の「住宅の火災安全小委員会」は、2020年9月にシンポジウム「あなたの家は大丈夫ですか?――戸建て住宅の火災時避難安全について考える――」を開催。対策を訴えた。
まず知っておきたいのは、住宅火災で住民が死亡する原因の多くは熱や炎ではなく、煙であることだ。消防庁の集計では、煙によるCO(一酸化炭素)中毒・窒息死が43%で、熱や炎による火傷死の37%を上回る〔図2〕。
煙は延焼速度よりも速く広がる。防耐火性能を備える実大の木造3階建て住宅での火災実験では、1階の出火から約16分30秒後に3階廊下の煙濃度が避難できないレベルになった。ちなみに、3階に延焼したのは約65分後だった〔写真1〕。
特別な防耐火対策が採られていない、いわゆる「裸木造」の建物よりも、防耐火性能を高めた準耐火建築物や耐火建築物の方が、CO中毒と窒息死の割合が多いというデータもある〔図3〕。建物の防耐火性能を高めると延焼速度が遅くなるので、倒壊までの時間を長く稼げる。一方で、住民は火災の発生に気付くのが遅れやすくなる。そのため、火災に気付いた時は階段から煙が広がって、CO中毒や窒息死に至るケースが増すとみられている。
三井ホーム技術研究所研究開発グループ管事で同小委員会の主査を務める泉潤一氏は、「防耐火性能を上げても避難安全性能が高まるわけではない。仕上げ材や家財が燃えている間に住民が逃げられるようにすることは、どの防耐火構造にも共通する問題だ」と説明する。