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 「浸水深が道路面から1.7mくらいの高さに達した時点で、家が浮いて北側の電柱にぶつかるのを見た」。決壊地点から2km以上北側に立つ住宅Cについて、隣家の住民はこう証言する〔写真1〕。現在は建物の南西側が33.2cm浮き上がり、北東側に傾いている状態だ〔写真2〕。

〔写真1〕電柱にぶつかる
〔写真1〕電柱にぶつかる
住宅Cの西側の外観を見る。浸水時、浮きながら左横に立つ電柱にぶつかる様子が目撃された(写真:日経ホームビルダー)
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〔写真2〕浮いた状態で着地
〔写真2〕浮いた状態で着地
住宅Cを南西側から見る。建物は南西の角が33.2cm浮き、北東側に傾いた状態で同じ位置に着地した。南西側は基礎の下面が見える状態だ(写真:日経ホームビルダー)
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 住宅Cが位置するのは、決壊地点から流れてきた氾濫流がたまり、2m以上浸水した地区だ。採用している仕様は断熱パネルの外張りとベタ基礎。竣工した23年前に測定したC値(相当隙間面積)は0.23cm2/m2と、かなり高い気密性能を示していた。室内に水が浸入しにくいつくりだ。

 田村代表の計算によると、住宅Cの建物荷重は約1100kNになる。室内に水が全く入らない状態だと、外周部の浸水深が基礎下面から約1mの高さに達したときに、浮力が建物荷重を上回る。住宅Cで確認された浸水深はこれより高いので、計算上でも浮くことは証明できる〔写真3〕。

〔写真3〕窓ガラスに残された水位は2.2m
〔写真3〕窓ガラスに残された水位は2.2m
住宅Cの室内。窓(複層ガラス)の外側には基礎面から2.2mの高さに浸水の跡を示す線が残されていた。壁体内は泥などが入らず、きれいな状態だった。別の窓は複層ガラスの外側だけが割れていた(写真:日経ホームビルダー)
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 浸水時の住宅Cは現在の位置より全体的に高く浮き上がりながら、電柱のある北側に傾き、水位が下がって着地したと田村代表は推定する。基礎まわりの土が削り取られ、配管が多数外れているのは、浮力が働いた痕跡と考えられる〔写真4〕。

〔写真4〕配管が外れる
〔写真4〕配管が外れる
基礎まわりの配管は外れていた。浮いた住宅では基礎まわりの土が削り取られる被害が生じる。基礎下面に水が浸入したことを示す特徴だ(写真:日経ホームビルダー)
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 住宅Cが浮き上がりながら北側に傾いた点について田村代表は、「南側が平屋建てなので、建物荷重の重心が浮力の中心から少し北側にずれていたことが関係している」と指摘する〔図1〕。建物がバランスよく浮くためには、荷重の重心と浮力の中心がそろっている必要がある。北側に傾いたのは、浮上時のバランス効果とみられる〔図2〕。

〔図1〕建物の重心と浮力の中心がずれる
〔図1〕建物の重心と浮力の中心がずれる
住宅Cの配置図に、被災後に測定した水平レベルと、建物の重心位置、浮力の中心位置をそれぞれ記す。建物の重心位置と浮力の中心位置がずれている(資料:田村和夫代表の資料を基に日経ホームビルダーが作成)
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〔図2〕傾くことでバランスを取る
〔図2〕傾くことでバランスを取る
住宅Cが傾いたメカニズムを示す。浮力のバランスを取るため、北側に傾いたとみられる。敷地地盤面は道路面より約50cm高いので浸水深は120cmとした(資料:田村和夫代表の資料を基に日経ホームビルダーが作成)
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 日経ホームビルダーの取材によると、長野市内ではこれまで紹介した3件の住宅の他に、基礎断熱のベタ基礎ごと浮いた住宅が少なくとも10件見つかった。その中には浮きながらもとの位置から動いたと思われる住宅が3件、外壁に繊維系断熱材を充填していた住宅が1件あった〔写真56図3〕。

〔写真5〕築半年で南北方向に大きく傾く
〔写真5〕築半年で南北方向に大きく傾く
住宅Bの2軒隣に立つ築半年の住宅Dは、建物の南西側が浮いて北側と東側に大きく傾いた。基礎断熱を採用していた(写真:長谷川 順一)
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〔写真6〕4m以上動いて隣地で着地
〔写真6〕4m以上動いて隣地で着地
住宅Cに近い場所に位置する別の住宅。浸水前の位置より4m以上移動して、隣地に入ったところで着地していた。平屋建てで荷重が軽いため浮きやすかったと思われる(写真:田村 和夫)
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〔図3〕建物位置が55cm移動
〔図3〕建物位置が55cm移動
住宅Dの配置図。浸水前の位置から氾濫流が流れる方向に55cm動いた(資料:長谷川 順一)
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