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 基礎ごと浮いた住宅に共通する特徴は、躯体の気密性能が高く、ベタ基礎に基礎断熱を採用していたことだ。この仕様の住宅が浮いた隣の敷地で、布基礎と床断熱を採用した住宅が浮かなかったケースも確認されている〔写真1〕。いずれも築半年未満の住宅だった。

〔写真1〕床断熱の住宅は軽微な被害
〔写真1〕床断熱の住宅は軽微な被害
住宅Dの隣に立つ住宅Eは室内が浸水し、地盤は洗掘されたが、浮く被害は生じていなかった。布基礎と床断熱を採用している。引き渡し直前に浸水被害に遭った(写真:日経ホームビルダー)
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 浸水時に木造住宅が浮き上がる被害はこれまで顕在化していなかった。しかし田村代表は「当然起こる現象だ」と話す。

 浮力が発生するには、建物の基礎の下面に浸水が及んでいることも欠かせない。基礎と地盤に詳しいミサワホーム総合研究所の松下克也取締役は、「基礎断熱で用いるベタ基礎はスラブの下面が平らなので、基礎梁やフーチングで下面が凸凹している布基礎と比較して、より浸水しやすくなる恐れがある」と説明する。

 建物が浮くのは浮力が建物荷重を上回るときだが、木造住宅には荷重が軽いという弱点がある。田村代表が木造住宅の一般的な荷重で計算すると、2階建ては基礎下面から約1m、平屋建ては同75cmの浸水深で浮力が上回る結果になった〔図1〕。

〔図1〕布基礎の2階建ては浮力が生じにくい
〔図1〕布基礎の2階建ては浮力が生じにくい
左端は、滋賀県が作成した耐水化建築ガイドラインに記された「室内に水が浸入する住宅」の例。布基礎の床断熱を想定。室内の空気だまりが少ないので高さ3.5mの浸水でも浮かない。中央と右端は田村代表が計算した「室内に水が浸入しない住宅」の例。ベタ基礎の基礎断熱を想定。2階建ては浸水深が基礎下面から0.96m、平屋建ては同0.75mを超えると浮く(資料:日経ホームビルダー)
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 室内に水を入れない木造住宅が、実際にどの程度の浸水深で浮くかは、一条工務店と防災科学技術研究所が19年10月に非公開で実施した実大実験が参考になる〔写真2〕。実験を手掛けた防災科学技術研究所の酒井直樹主任研究員によると、浮き始めた浸水深は地盤面から1.8m弱の高さだった。田村代表の計算より浸水深が高かった理由について酒井主任研究員は「屋根に太陽光発電パネルを載せるなど通常より荷重が重いことが関係している」と話す。

〔写真2〕非公開の実験で浮き上がる
〔写真2〕非公開の実験で浮き上がる
一条工務店と防災科学技術研究所が19年10月に実施した耐水化住宅の浸水実験。地盤面から1.3mの高さまで浸水させたときは浮いていないが、浸水深1.8mでは浮いた(写真:日経ホームビルダー)
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 一方、室内に水が入る住宅では、室内にたまる空気の体積が小さくなるので浮力は弱まる。滋賀県が作成した「耐水化建築ガイドライン」には、3.5mの高さまで浸水しても浮かないという結果が示されている。

浮力の発生を抑える

 自社で建築した住宅が浮く被害を経験した住宅会社からは、「浸水リスクの高い場所では基礎断熱を採用しない」という声が複数挙がっている。その一方で、「快適な温熱環境や省エネ効果をもたらす基礎断熱はやめられない」という意見も住宅会社と住民に根強い。基礎断熱は床断熱よりも室内に水が入りにくくなる点を、建物と家財の損害を減らす意味で重要視する住宅会社も少なくない。

 浮力自体の発生を抑える方法として田村代表が示す一例は、地盤のかさ上げや地下室の設置だ〔図2〕。基礎下面に水が回りにくくなる。

〔図2〕基礎断熱を採用した住宅の浮き上がりを防止する提案
〔図2〕基礎断熱を採用した住宅の浮き上がりを防止する提案
取材で得られた対策の例をまとめた(資料:日経ホームビルダー)
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 建築の耐水構造の研究に取り組む金沢大学の村田晶助教は、犬走りを幅広く設計して、洗掘と浸水を抑える方法を挙げる。同様の効果を期待するものとして、被害現場を多数見ている建物修復支援ネットワーク(新潟市)の長谷川順一代表は、ベタ基礎のフーチングの出寸法や根入れ寸法を大きくすることを提案する。

 一定以上の浸水深になった場合は室内に水が入ることを許容し、そのための浸水孔を設けるという対策もある。「『大きな川があふれるときは窓を開けて逃げて、小さな川があふれるときは窓を閉めて逃げる』という1940年代後半のカスリーン台風での経験的伝承に倣う考え方だ」と田村代表は話す。