全2127文字
PR

熊本県は住宅の伝統構法に関して、構造計算を手慣れていない建築士でも、限界耐力計算で構造的な安全性を確認でき、建築確認の申請書類を容易に作成できる独自の設計指針を2020年3月に作成した。石場建てや耐力壁などの規定で主だった部位の内容を紹介する。

 金物を使わない伝統構法の普及を阻む難題といえば、確認申請時に面倒な限界耐力計算が必要になることだ。熊本県はこの問題解消を狙い、「くまもと型伝統構法を用いた木造建築物設計指針」(以下、指針)を作成。2020年3月に解説書を発行した。構造的な安全性を確認済みの仕様や設計方法をまとめた指針で、全国初の取り組みだ。

 6月17日からは指針解説の講習会を開催し始め、7月6日までに県内外から実務者や自治体職員など240人以上が申し込むなど、反響を呼んでいる〔写真1〕。

〔写真1〕県外からの受講者も
〔写真1〕県外からの受講者も
2020年6月17日に開催された指針を解説する第1回講習会。県内外から受講者が訪れ満席になった(写真:熊本県)
[画像のクリックで拡大表示]

 県の指針作成の背景には、都市計画区域など建築基準法上、確認申請が必要な対象エリアを県内全域に広げる政策課題がある。その検討過程で、地元の建築実務者に影響を聞いたところ、「伝統構法の住宅で、これまで手掛けてきたことのない限界耐力計算と構造適合性判定を伴う確認申請にいきなり対応するのは困難。伝統構法へのニーズがあることを踏まえて、対策を講じてほしい」という声が多く寄せられた。

 当時は県の建築住宅局長で、現在は熊本県建築住宅センターの田邊肇専務理事は次のように振り返る。「地域産材の活用や地域産業の活性化にもつながるので、継承すべき技術や知識が多い伝統構法を県として支援したい。それには、確認申請が不要な区域であることが主な理由で建てられている状況を変えなければならないと認識した」

 県は熊本県立大学、地元の設計事務所や大工などからなる検討委員会を16年度に設置。構造計算に手慣れていなくても限界耐力計算で構造的な安全性を確かめ、確認申請書類を容易に作成できる設計法を指針としてまとめ上げた。

 検討委員会のメンバーで伝統木造住宅の限界耐力計算を多数手掛けるすまい塾古川設計室(熊本市)の古川保代表は、「限界耐力計算をまともにやると120ページ以上の書類を作成することになり、約2カ月はかかる。指針の設計法なら計算が極端に減るので、労力は従来の3分の1に短縮される」と話す。