
地域密着型の小さなA工務店は、社長の顧客対応の良さで手堅い支持を得ている。現在、既存の古い住宅を2世帯住宅に建て替える計画を進めている。その建て主のB氏はOB客からの紹介だった。
家族構成は、子世帯がB氏と妻、子供の3人で、親世帯がB氏の母親1人で計4人。打ち合わせはB氏を中心に進んだ。
B氏の要望は既存の庭木をなるべく残すこと。母親は初期認知症なので、以前の家の記憶を引き継ぎたいという配慮からだ。特に母親は毎年、カリンの実でシロップをつくっており、その習慣を継続させたいと言う。
契約は無事にまとまり、工事が始まった。建て方が終わり、足場が組み上がるとカリンの木が足場に干渉して作業の邪魔になった。大工は現場に顔を出した社長に「切ってもよいか」と尋ねた。そのときちょうど、B氏の母親が現場に来た。近くのアパートに仮住まいをしており、ほぼ毎日現場でお茶を出していたのだ。
社長はこれ幸いとばかりに、「この木を切っていいですか?」と母親に聞いた。母親がためらわずに「いいですよ」と答えたため、社長は大工に指示をして木を切らせた。