エアコン1、2台で全室の冷暖房を手ごろな設置費用と光熱費でまかなう「全館空調」を提案する住宅会社が続々と登場している。戸建て住宅の冷暖房設備に約4割のユーザーが不満を抱えているという民間の調査結果もあるなか、高断熱住宅の住まい方を変える新技術として注目を浴び、実際に導入した顧客からも高い評価を得ているようだ。しかし、同じ調査では「全館空調」に対して「光熱費や設置費が高そう」というイメージを抱くユーザーが4割以上に上る結果も出ている。
実際はどうなのか。メリットとデメリットは何か。日経ホームビルダーは3タイプの全館空調を採用している高断熱住宅で、真夏の温湿度と冷房のエネルギー消費量を独自調査してみた。そのほか、全館空調におけるトラブル事例、全16種に上るシステム別の要素技術と課題も紹介する。

「全館空調」の実力を検証する
温湿度と消費電力を日経ホームビルダーが独自調査
目次
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エアコンと吹き出し口の距離を極力短めに設定
測定事例1 Z空調(埼玉県)
異なる全館空調を採用した3軒の高断熱住宅でこの夏、日経ホームビルダーは温湿度とエネルギー消費量を測定した。3軒とも室温はほぼ制御できていたが、夏の快適湿度とされる60%以下は保てないことが分かった。
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階間をチャンバーに活用 壁掛け1台から全館に送風
測定事例2 階間エアコン(新潟県)
新潟市の工務店、オーガニックスタジオ新潟は、これまで床下をチャンバーとして活用する「床下エアコン」に取り組んできたが、昨年その応用である「階間エアコン」を長岡市の住宅I邸で採用した〔写真1、図1〕。 2階の床下に半分埋め込むように設置した壁掛けエアコンの冷気・暖気を階間に吹き込んで1・2階の冷暖房…
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壁掛け1台の冷気・暖気 大風量で循環させる
測定事例3 マッハシステム(愛知県)
愛知県豊川市内で2019年2月に完成したKo邸には、階段を上ってすぐの2階の廊下に、広さ1畳の空調室が設けられている。ここが、Ko邸に搭載した全館空調「MaHAt(マッハ)システム」を司る心臓部だ。マッハシステムとは、フランチャイズ組織のFHアライアンス(同県春日井市)が開発した、壁掛けエアコンと…
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2℃前後の温度差でもクレームを招く
温度の不快
高断熱住宅に設置された全館空調での温熱トラブル事例と、空調ダクトにほこりやカビ、表面結露が発生した事例を紹介する。ダクトの不具合は室内の空気質汚染や木材の劣化につながるので軽視できない。
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ダクトとチャンバー空間のカビ・ほこりが影響
空気質の汚染
「全館空調のダクト内のカビやほこりによる健康被害は既に発生している」。そう警鐘を鳴らすのは、ダクト清掃を手掛ける日本ウイントン(東京都大田区)の清水晋業務企画部長だ。
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断熱・気密欠損がダクトの結露を誘発
躯体の劣化
エアコンの設置状況次第で、恒常的に結露が発生し、木材の腐朽などが生じることもある。信越ビー・アイ・ビーの小林社長は「空調機を設置する機械室は室内と同等の温熱環境とするのが原則」と強調する。
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エアコンの設置場所と送風方法に独自の工夫
100万円台
住宅会社など様々なプレーヤーが開発した、エアコンを用いる高断熱住宅向けの全館空調システムを日経ホームビルダーが16種類ピックアップ。価格帯別に見た送風の工夫やトラブル防止策などを解説する。
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壁掛けエアコンを冷暖房で使い分ける
100万円未満
安価な全館空調の定番は1台もしくは2台の壁掛けエアコンを用いる手法だ。「階間をチャンバーに活用 壁掛け1台から全館に送風」で紹介した「階間エアコン」のほかにも以下のようなものがある。ウッドシップ(東京都小平市)は壁掛けエアコンを通常の位置に設置し、暖房は1台、冷房は2台で全館空調を行う。
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エアコンと熱交換換気ダクト送風を組み合わせる
200万円以上
200万円以上の全館空調システムの代表格は三菱地所ホームの「エアロテック」で、7500棟の実績がある。
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エアコン設定温度と風量を空間ごとに制御
温度むら防止
1台のエアコンで全館空調すると、日射の当たり具合や在室者の人数といった部屋の状況の違いで、温度むらが生じる場合がある。家族1人ひとりで心地よい体感温度が異なり、ストレスになるケースもある。この対策は、部屋ごとに風量やエアコンの設定温度を変えられる制御機能を、費用を掛けて設置することだ。
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清掃性を左右するダクトの素材選択
維持管理
全館空調の課題の1つが維持管理だ。ダクト清浄事業を展開する日本ウイントン(東京都大田区)の清水晋業務企画部長は「引き渡しから5年後には給気ダクトにもほこりが堆積している。定期的なダクト清掃が不可欠」と指摘する。
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ピーク時の冷房負荷をQ値と日射取得で計算
エアコンの必要能力
この特集で紹介した全館空調で使われているエアコンの定格能力は、2.8~9kWと幅広かった。比較的多いは4.0kWだ。全館空調で必要なエアコンの能力を経験や勘ではなく、計算で確認できると便利だ。
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除湿性能高めた機器を自作した会社も
除湿
夏に不快さを感じない室温26~27℃、湿度55%の実現には全熱交換換気が有効だ。この温度で理想とされる湿度50%とするには、エアコンで再熱除湿をするか、デシカント式の除湿機を併用する。
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チャンバー利用には気密化の徹底が重要
床下気密
安価な全館空調は、1階床下や2階床下(階間)をチャンバーとして利用する方式が多い。その際、床下に冷気・暖気が等しく広がらないと室内に送る冷気・暖気の温度や風量にむらが生じ、不快な環境になる。