2018年の台風21号と19年の台風15号は、強風によって多くの住宅に被害をもたらした。ところが、建築基準法には木造住宅の耐風圧性能の規定はほとんどなく、飛来物対策の規定もない。住宅の耐風圧性能が十分なのか分からない状況だ。そこで、日経ホームビルダーは風工学の専門家の協力を得て住宅の屋根や壁にかかる風圧力を計算。屋根ふき材や小屋組み、サッシやガラス、シャッターなどが、どの程度の性能を実際に備えているかを再確認した。強風地域の住宅会社の取り組みも紹介する。

暴走「風」台風に向き合う
住宅の耐風性能は万全なのか
目次
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4号建築物は仕様規定だけ
近年の巨大台風では、各地で屋根ふき材や野地板が吹き飛び、サッシやガラスが壊れる被害が多発した。このような損傷を生み出すメカニズム、風に対する建築基準法の規定はどのようになっているのか。
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くぎ留めでは飛散する場合も
「風」台風の被災地では、ガイドラインの工法に準拠した瓦や、くぎ留めした化粧スレートの飛散被害が生じた。屋根ふき材の耐風圧性能は製品や留め付け方法でかなり変わるので、選定には注意を要する。
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風穴が開くと吹き飛ぶ危険
軒天井や開口部が壊れ、小屋組みが吹き飛ぶ被害はどうして起こるのか。試算では、野地板に働く風圧力は軒やけらばで特に大きく、垂木は母屋へ1本おきに固定すると危険という結果が出た。
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沿岸部は「沖縄仕様」の検討を
開口部が破損すると、室内の圧力が高まり、小屋組みの損壊など大きな被害を招きかねない。沿岸部など風圧力の強い地域では沖縄仕様のサッシを利用し、適切な仕様のガラスを選択することを心掛けたい。
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風災対策でも高まる期待
開口部を飛来物から守る対策の要として窓シャッターが改めて注目されている。リフォーム用の耐風仕様の製品も近々登場する。耐風圧性能の向上や耐衝撃性能基準を見直す動きも出ている。
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高い耐風圧性能の確保は困難
軽量シャッターは台風で被害が相次いでいる。耐風圧性能は大手メーカー製品の最高クラスでも750Paなので、告示式で算出した風圧力に耐えるのは困難だ。後付けの補強材が開発されている。
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窯業系と金属系に性能差
2019年の台風15号が大きな被害をもたらした千葉県の海岸沿いでは、比較的新しい戸建て住宅の金属系サイディングが隅角部で剥がれる被害が確認された。劣化は見られないことから、強風で仕上げ材が剥離して風の渦が巻くことによる強い負圧の影響だとみられる。
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修繕費用は火災保険で賄える
風災被害の修繕は火災保険を利用できる。所有者への対応として住宅のプロが知っておきたい点を、保険代理業を営むサプライズジャパン(千葉県市原市)の宮嵜勝己代表への取材を基にまとめた。
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狭くなる道やビル周辺は風が強まる
周辺の建物の影響で風が局所的に強くなり、建物に被害を与えることがある。風の解析を多数手掛ける環境シミュレーション(東京都千代田区)の阪田升(みのる)代表に、自社で開発したソフトを使って実際の台風被害を2つのモデルで分析してもらった。
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下地材と防水を強化する
強い「風」台風を経験している住宅会社に、強風対策を盛り込んだ標準仕様を尋ねた。仕上げ材の飛散を防ぐには、下地材の補強と劣化対策が欠かせない。下からたたきつける雨水の浸入対策も求められる。
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温暖化で強い風雨が増す恐れ
2018年の台風21号と19年の15号が甚大な風災をもたらしたのはなぜか。台風に詳しい防衛大学校地球海洋学科の小林文明教授に聞いた。