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軒天井や開口部が壊れ、小屋組みが吹き飛ぶ被害はどうして起こるのか。試算では、野地板に働く風圧力は軒やけらばで特に大きく、垂木は母屋へ1本おきに固定すると危険という結果が出た。

 近年目立つ大型の「風」台風では、風上側の軒天井や開口部が壊れ、野地板や垂木まで吹き飛ぶ被害が出た〔写真1〕。現地を取材した限りでは、施工不良や劣化だけが原因ではなさそうだ。

〔写真1〕垂木ごと吹き飛んだ
〔写真1〕垂木ごと吹き飛んだ
千葉県鋸南町岩井袋地区に立つ木造2階建て住宅では、台風15号で風上の軒天井が破損し、野地板と垂木が飛散した。軒だけに、ひねり金物が確認できた(写真:日経ホームビルダー)
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 住宅金融支援機構の住宅工事仕様書(以下、仕様書)は、小屋組みについて建築基準法より細かく規定している〔図1〕。野地板は、構造用パネルを使う場合はN50くぎを150mm以内ごとに平打ちする。垂木は、軒先部ではひねり金物などで全箇所を桁に固定する。母屋などに対しては、N75くぎを用いて両面斜め打ちで固定する。ただし、全ての母屋に固定するかどうかの記載はない。

〔図1〕住宅工事仕様書の小屋組みの規定
〔図1〕住宅工事仕様書の小屋組みの規定
垂木、野地板の接合に関する住宅金融支援機構「住宅工事仕様書」の内容(資料:日経ホームビルダー)
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4寸勾配のモデルで試算

 このような標準的な小屋組みは、どの程度の風圧力に耐えられるのだろうか。日経ホームビルダーは、風圧力の研究に長年取り組んできた岡田恒氏(前日本住宅・木材技術センター試験研究所所長)に試算を依頼した〔写真2〕。

〔写真2〕風研究の第一人者
〔写真2〕風研究の第一人者
野地板、垂木の留め付けに関して試算した岡田恒氏(前日本住宅・木材技術センター試験研究所所長)。長く、風圧力に関する研究を続けてきた(写真:日経ホームビルダー)
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 試算に用いたモデルは4寸勾配の切り妻屋根を持つ2階建て木造住宅だ〔図2〕。風上側にある野地板や垂木を対象に、そこに働く風圧力を変え、「必要留め付け強度」(以下、必要強度)がどう変わるかを調べた。

〔図2〕4寸勾配の切り妻屋根モデルで試算
〔図2〕4寸勾配の切り妻屋根モデルで試算
平均屋根高=6430mm、各階床面積=66.3m2。野地板の留め付けは、垂木(スギ)の間隔455mm、留め付けの間隔150mm で計算(資料:日経ホームビルダー)
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 野地板では、張間方向と桁行方向からの風を受ける「軒」「けらば」「それ以外の部分」(以下、一般部)に分け、「野地板のみ」「亜鉛鉄板ぶきの軽い屋根」「瓦ぶきの重い屋根」の仕様で比較した。一般部では建物が健全な場合のほか風上側の外壁に穴が開いた場合も試算した〔図3〕。

〔図3〕野地板の留め付けはけらばと軒に注意
〔図3〕野地板の留め付けはけらばと軒に注意
風圧力に対応した野地板の必要留め付け強度。軒やけらばでは、N38くぎで厚さ8mmの野地板を留める仕様だと野地板の浮き上がりを押さえられない場合が多い(資料:岡田恒氏の試算結果を基に日経ホームビルダーで作成)
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 風圧力の設定では、地表面粗度区分と基準風速を2種類ずつ組み合わせた。合計4タイプのうち風圧力が最も小さいのは「地表面粗度区分III、基準風速34m/s(濃い青い棒グラフ)」で、最も大きいのは「同区分II、同風速38m/s(赤色の棒グラフ)」だ。グラフ上の縦線は、野地板の厚さとくぎの種類に応じたくぎの引っ張り耐力を示す。棒グラフの先端が縦線の右に出ている場合は、風で持ち上げられる野地板をくぎでは押さえ切れない。

軒やけらばに大きな力

 試算の結果はどうか。野地板まわりは瓦ぶきのように重いほど、必要強度は小さくなった。外壁の風上側が破損すると、必要強度は大幅に増えた。健全なら「野地板8mm+N38くぎ」で大丈夫な場合でも、破損すると押さえ切れない状況が多発した。

 軒やけらばの必要強度は屋根の一般部よりさらに大きく、古い仕様である「野地板8mm+N38くぎ」は過半で使えない。「軒やけらばにかかる風圧力は大きい。一部が壊れると次々に損傷が広がるので、十分な強度を備えた接合法を選びたい」と岡田氏は話す。

 もう1つ留意したいのは、地表面粗度区分が「III(市街地)」から「II(田園地帯など)」になると必要強度が跳ね上がることだ。「区分IIIでも目の前が開けた敷地は区分IIに近い可能性がある。安全側の区分IIで計算したほうがよい場合もある」(岡田氏)

仕様書には前提がある

 次に、垂木についての試算結果を見てみよう。こちらは風圧力の最も小さな「地表面粗度区分III、基準風速34m/s」と最も大きな「同区分II、同風速38m/s」の2タイプで比較した〔図4〕。上の図は軒桁への接合、中間と下の図は母屋への接合の状況を示す。中間の図は垂木を全ての母屋に固定した場合、下の図は母屋1本おきに固定した場合だ。

〔図4〕母屋1本おきの垂木固定は危険
〔図4〕母屋1本おきの垂木固定は危険
垂木の軒桁への接合は住宅工事仕様書に書かれた「ひねり金物」を用いれば問題ない。母屋への接合も母屋1本おきに固定する場合には金物が必要になる(資料:岡田恒氏の試算結果を基に日経ホームビルダーで作成)
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 試算では、軒桁との接合部は仕様書に記載されたひねり金物で固定すれば問題はなかった。母屋ごとに固定した場合も、仕様書の「N75くぎ2本斜め打ち」でほぼ対応できる。

 危険性が一気に高まるのは、母屋1本おきに垂木を固定した場合だ。建物の一般部が健全な状態なら「N75くぎ2本斜め打ち」でも問題ないが、風上側が破損すると一部を除いてくぎ打ちでは押さえ切れない。風圧力が大きい地域では、瓦ぶき以外はひねり金物ST-12でも対応できず、引っ張り耐力2040Nを持つひねり金物ST-15Nなどが必要になる。

 「仕様書は明記していなくても、母屋ごとの固定を前提としているはずだ。前提条件を理解して施工することが大切だ」と岡田氏は説く。