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事例1
プロの提案が「安っぽい」

 「リフォームを検討しているから、自宅に来てくれ」。こんな電話を受けた住宅会社の営業担当Aさんは、顧客Bさんの家を訪ねた。リビング・ダイニング・キッチン(LDK)を中心とする模様替えリフォームの案件だった。

 Bさんと話していると、既に競合複数社から見積もりを取っている様子だ。「室内の雰囲気を変えてもらいたいんだ。3社から見積もりを取ったが、どれも予算より高くてね」とBさん。

 「コストを気にしているお客さんだな」。そう判断したAさんは、できるだけ安価な仕様で提案をまとめることにした。壁紙や床材は汎用品のなかで最も安いタイプにしたほか、下地材の処理や養生なども含めて、全般的に最低水準のコストで見積もった。

見誤った顧客の本心

 総額はBさんが示した予算の範囲内で、建材などの仕様についてAさんはBさんに「自社の標準品です」と説明。最終的にこのリフォーム案件を受注できた。

 工事は問題なく終わり、引き渡した直後、Bさんからクレームが寄せられた。「完成してみたら、あまりにも安っぽくて貧相だ。これではリフォーム前と変わらないじゃないか」。住宅会社のAさんは「コストの範囲で良いものを選んだ」と説明を繰り返し、ようやく矛を収めてもらったが、Bさんは最後まで不満顔を隠さなかった。

 Bさんのクレームに対処しながら、Aさんも自らの誤りに気づいた。「確かにBさんは最初、『雰囲気を変えたい』と話していた。コストを抑えることだけが要望ではなかったのだ」。予算のなかでどのようなことが可能か、どの程度の上積みで何が可能かなど、提案のバリエーションが圧倒的に不足していたと反省する。

事例2
伝わらなかったコスト抑制の努力

 工事費500万円弱の中規模リフォームを担当した住宅会社の営業担当Cさん。それなりに高額な案件ながら、顧客のDさんが示す要望は曖昧で、プランづくりの方向性に悩んでいた。

 「まずはDさんが希望する予算内で納めることが最優先だ」。間取りの大幅な変更やキッチンまわりの新規造作などは極力控えて、比較的安価な既製品で見積もりをまとめて提案し、契約を獲得した。

「良い提案なら増額でも…」

 工事が終わって引き渡しの日、顧客Dさんはどうも機嫌が悪い。「費用の割に内容がないリフォームだね。プロならではの仕事を期待していたのに、がっかりだ。良い提案なら予算を増やしてもよかったのに」と、DさんはCさんを責めた。顧客にとってコストは大きな関心事だが、コスト抑制を第一に考えた提案は成果が伝わりにくい。そうした難しさをCさんは改めて認識した。

事例3
「10万円節約するくらいなら…」

 工務店の営業兼現場監督を務めるEさんは、築40年の木造2階建て住宅のリフォームで顧客Fさんからクレームを受けた。

 「子どもが巣立ったので、夫婦2人向けに改修したい」という要望を聞いて、Eさんは、生活動線が1階で完結する間取り変更と断熱改修をセットで提案。Fさんも受け入れた。

 断熱改修に伴って解体範囲が広範囲に及ぶことから、費用は当初Fさんが示していた予算から多少超過することが見込まれた。Eさんは計画時にFさんと話し合って、既存部分を生かせる箇所は生かすなどやりくりして、なんとか予算ぎりぎりに納まる提案をまとめた。

顧客が欲したのは「最善の提案」

 完成後、刷新した住まいで生活し始めた顧客Fさんから、工務店のEさんにクレームが寄せられた。「1階で床鳴りが気になって仕方がない」というクレームだった。問題の箇所はLDKの一画で、既存の根太に歪みがあった。解体時に、交換なら材工費ベースで10万円程度の追加が見込まれた箇所で、Eさんは構造的に問題がなかったことから予算厳守を優先。Fさんにも伝えないで、問題の根太をそのままにしていた。

 Fさんのクレームに対して、Eさんは「実は…」と根太の話を伝えた。「10万円程度の増額で済んだのなら、工事の途中で知らせてくれれば予算の増額を認めたよ。そうすればこんな思いはしなかったのに」とFさんは嫌みたらたらだった。

 Eさんは、「よかれと思ったのだが、予算の上限にかかわらず、状況を踏まえて最善の提案を示しておくべきだった」と強く後悔した。