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住まい手が小屋裏に入ると、びっしょり濡れた野地板から水が滴り落ちてきた。原因は小屋裏の換気不足。完全に密閉された空間で、充満した湿気が大量の結露を引き起こした。(日経ホームビルダー)

 今回は、小屋裏換気の施工ミスによる結露トラブルを取り上げる。昨今の高気密・高断熱住宅の普及で、小屋裏での結露トラブルが急増しており、今回はその典型的な事例を紹介する。読者のなかには「雨漏りの連載でなぜ結露の話?」と疑問に思う人もいるかもしれない。まずは、結露トラブルを取り上げる理由から説明する。

 日本建築学会の「建築工事標準仕様書・同解説 JASS12 屋根工事」は、屋根工事で目標とする防水性能について「通常の風雨条件に対して、室内への雨漏りおよび『屋根層内への有害な浸水』を生じないこと」と規定している。

 「屋根層内への有害な浸水」とは、屋根の下ぶき層より下方にある下地材、仕上げ材、断熱材などを劣化させる浸水を指す。これらの有害な浸水は、雨水だけでなく結露によっても発生する。また、雨水浸入を水分源とする結露が頻発して、屋根層内の劣化を招くこともある。

 つまり、屋根層内の有害な浸水を防ぐには、雨水浸入だけでなく結露にも十分目配りする必要がある。こうした実態を踏まえ、本連載では結露トラブルも幅広く取り上げていく方針だ。

小屋裏の室内が真っ暗

 今回紹介する住宅では、小屋裏換気の軒吸気・棟排気の方法を、住宅金融支援機構の仕様に準拠して設計図面に明記していた。ところが、実際には施工ミスで小屋裏換気がなされず、結露が発生した。竣工から約15年、住宅会社の現場監督やメンテナンス担当者、屋根・外壁工事会社の技術者など、誰も小屋裏換気が行われていないことに気付かなかった。

 水滴の落下を発見したのは、住まい手だ。スレート屋根材の劣化が激しいのでふき替えをしたいと考え、小屋裏に入ったところ、野地板から水滴が落ちているのを発見した。

 相談を受けた筆者が住まい手と一緒に小屋裏に上がったところ、住まい手の指摘どおり、野地板が濡れていた〔写真1〕。断熱材には多数の水滴が落ちた形跡があり、垂木の表面には水が流れた跡が残っていた。住まい手は「くぎから水滴が落ちている。劣化したスレート屋根から雨水が浸入したのではないか」とみた。確かに、断熱材の水滴跡はくぎの直下にあった。しかし筆者は、経験上、これだけ多数のくぎから雨漏りすることはなく、典型的な小屋裏での結露現象と考えた。

〔写真1〕びっしょり濡れた野地板から水滴が落下
〔写真1〕びっしょり濡れた野地板から水滴が落下
築15年の2階建て木造住宅のトラブル事例。小屋裏に入って調べたところ、野地板の裏面がびっしょり濡れ、くぎの先端から水滴が落ちていた。住まい手は、劣化したスレート屋根からの雨漏りを疑ったが、筆者はくぎ先端で発生した結露が原因とみた(写真:神清)
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 住まい手に小屋裏換気の有無を確認した。すると「屋根の棟部には換気棟部材を設けているし、軒先には軒先吸気部材を付けている」と明確な回答が返ってきた。住宅の構造や換気の仕組みをよく勉強されている様子だった。

 そこで、結露の可能性が高いことを理解してもらうために、筆者は小屋裏の中で懐中電灯を消した。すると、小屋裏は真っ暗になった。これは換気口が確保されていないことを示している。なぜなら、換気口が開いている小屋裏では、懐中電灯を消しても換気口からの明かりで真っ暗にはならないからだ。真っ暗になったことで、換気口がないことを説明した。

 屋根に上がってみると、住まい手が言われるように棟部に換気棟部材が設置されていた〔写真2〕。軒先には穴が開いた見切り材が付いていた〔写真3〕。しかし、どちらの部材も建物へつながる連通孔を開けていなかった。

〔写真2〕見掛け倒しの棟換気
〔写真2〕見掛け倒しの棟換気
棟換気の有無を調べたところ、換気材を設置していたものの、野地板やルーフィングをカットしていなかったので、通風を確保できない状態だった(写真:神清)
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〔写真3〕軒は見切り材を付けただけ
〔写真3〕軒は見切り材を付けただけ
軒天の様子。上は壁と軒天の取り合い部で、下はその拡大写真。見切り材を設けているが、換気口を確保していなかった(写真:神清)
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