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ここ数年、大型台風による屋根の飛散被害が相次いでいる。講師は「被害調査数の約7割が、棟部に構造的な弱点を抱えた日本瓦だった。台風の襲来に備えて弱点を補強しておく必要がある」と指摘する。(日経ホームビルダー)

 今回は台風時の屋根材の飛散事故を取り上げる。

 従来の雨仕舞いは雨水の処理方法に力点を置いてきたが、昨今の大型台風による屋根材の飛散被害を考えると、雨水処理だけでなく屋根材の飛散防止にも十分配慮すべきと思われる。こうした観点から連載では飛散被害も積極的に取り上げたい。

 最初に2019年9月に千葉県を襲った台風15号の屋根飛散の被害状況を解説する。その被害状況を踏まえ、効果的な飛散防止対策を提案したい。

飛散事故の7割が古い瓦屋根

 筆者は屋根業界の団体から調査員として、千葉県内で約300件の飛散現場を調べた。また、国土交通省国土技術政策総合研究所の調査チームの一員として、飛散被害を経験した住まい手へのヒアリング調査にも加わった。主な調査エリアは南房総市、鋸南町、館山市などである。これらの都市では、特に沿岸部に立つ住宅での屋根材の飛散が目についた。

 飛散被害は瓦、スレート、金属の全ての屋根材で発生したが、筆者の調査範囲では瓦屋根の比率が約7割を占めた。築年数の古い住宅の瓦が中心で、特に棟部に被害が集中した〔写真1〕。古い住宅の日本瓦は棟部に構造的な弱点を抱えており、台風被害でそのもろさが浮き彫りになった。

〔写真1〕2019年の台風15号では瓦屋根棟部の飛散が相次ぐ
〔写真1〕2019年の台風15号では瓦屋根棟部の飛散が相次ぐ
2019年9月に千葉県を襲った台風15号では、古い瓦屋根の棟部の飛散が続出した。古い瓦屋根は棟部に構造的な弱点を抱えたものが多く、地震や強風の被害を受けやすい。その弱点が狙い撃ちされた格好だ(写真:神清)
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 一方、スレート屋根材は、築年数の古い屋根の棟部で、棟包み板金が飛散するケースが続出した。比較的新しい住宅でも、スレート屋根材がくぎ穴を起点として横に割れ、飛散している例もあった〔写真2上〕。

 金属屋根では、築年数の古い瓦棒葺き屋根での被害が目立ち、屋根材の全面が吹き飛ばされた例もあった。比較的新しい縦ハゼぶき屋根でも、屋根の半面が飛ばされるなど、被害は広範囲に及んだ〔写真2中〕。

 筆者が台風来襲から約半年後に現地を再訪したところ、飛散した屋根のほとんどがブルーシートに覆われたままだった〔写真2下〕。

〔写真2〕スレートや金属でも飛散被害が発生
(写真:神清)
(写真:神清)
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(写真:神清)
(写真:神清)
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(写真:神清)
(写真:神清)
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千葉県内の被災地ではスレートや金属の屋根材でも飛散被害が発生した。一番下は筆者が台風来襲の半年後に再訪した際の写真。屋根の改修が進まずブルーシートが張られたままの地域もあった。

 これは、被災件数の多さに比べて、屋根工事の職人が圧倒的に不足していることが原因と思われる。こうした事態を避けるには、日ごろのメンテナンスで屋根の問題点を補修しておくことが重要になる。ここでは、特に被害が多かった古い瓦屋根の改修に焦点を当てる。