熊本地震で耐震等級3の住宅はどの程度の被害で済んだのか。福岡市の住宅会社、エコワークスは激震地に立つ自社施工の住宅2棟を、震災後に徹底調査した。今後の家づくりに生かす狙いだ。
2016年の熊本地震では、激震地(約100ヘクタール)に立つ耐震等級3の住宅16棟のうち14棟が無被害だった。そのうちの2棟を施工したのが福岡市に拠点を置く住宅会社、エコワークスだ。
エコワークスは、震災後にこの2棟の被災状況を詳しく調査した。同社の小山貴史社長は「たとえ外観が無被害でも、詳細な調査をしないと構造部材が受けたダメージを正確に把握できない。建て主の了解をいただいて、実際に外壁を剥がし、耐力面材や接合金物などの状態を確認することにした」と振り返る。
「通気胴縁が膨らみを抑えた」
調査した2棟は、熊本県益城(ましき)町寺迫地区に立つA邸と、同町馬水地区に立つB邸だ〔写真1〕。
A邸の室内を観察すると内装材の石こうボードにひび割れが生じている箇所が見つかった〔写真2〕。この場所は建物の剛心(抵抗力の中心点)から最も離れた変形しやすい部位だった。
調査班は、ひび割れが発生した事実から、弾性域の上限(層間変形角=1/120)を超える変形が建物に生じたと考えた。そうなると、耐力面材も損傷を受けた可能性がある。
ところが、実際に外壁を剥がして確認したところ、耐力面材にひび割れは見当たらず無傷だった。この理由について小山社長は「耐力面材には、200mmピッチで通気胴縁を留め付けていた。胴縁は構造計算に含めていなかったが、これが余力として効いた可能性がある」と話す。
「工学的な計算に基づく建物の揺れと、実際の地震時の揺れは必ずしも一致しない。実際の揺れは、計算から除外した“準耐力部材”も効いてくる。従って、安全率を十分に見込んだ構造計算をすれば、地震時には準耐力部材の効果も上乗せされ、安全性がさらに増す」(小山社長)
一方のB邸は、外装材や内装材、耐力面材のいずれにもひび割れが生じていなかった。耐力面材とサッシの取り合い部など、応力が集中しやすい部位も無傷だった〔写真3〕。
ただし、建物全体に日常生活に支障がないレベルのごくわずかな傾きが生じていた。小山社長は周辺地盤の影響によるものとみている。B邸では表層部から自沈を伴う緩い層が厚く堆積しており、不同沈下の恐れがあった。このため、セメント系固化材を使用した柱状改良工事を行っていた。
「地震時に地盤内の間隙水圧が高まり、ベタ基礎全体が揺られてわずかな傾きが生じたのかもしれない。柱状改良を施工していなければ、液状化に近い現象が起こっていた可能性もある。地盤改良の重要性を再認識した」と小山社長は振り返る。