2020年7月3日からの豪雨によって熊本県内で発生した住宅の全半壊と床上浸水の合計棟数は、8月5日時点で6295棟に達した。日経ホームビルダーは著しい住宅被害が発生した球磨川の氾濫流域にある住宅地を、7月17日から19日にかけて見て回った。浸水住宅の応急処理に関するQ&Aと併せて報告する。
津波の跡──。2020年梅雨末期豪雨で球磨川の濁流に飲み込まれた球磨村渡(わたり)地区の茶屋集落を歩き回った際の印象だ〔写真1〕。柱梁などの建材が散り散りになった状態で山積し、古い基礎や水回り設備が敷地内に残されていた。その光景は東日本大震災の津波被災地とそっくりだった。
球磨川の中流域にある渡地区は、過去に幾度も洪水に見舞われている〔図1〕。本流に支流が合流して曲がりくねって狭い渓谷部に入り込む、水の流れが滞りやすい地形に位置する。
今回の水害による茶屋集落の浸水深は、3階建て住宅に残された跡から8m前後に達したと推定される。16年版防災マップが示す2m以上5m未満を超える高さだ〔図2〕。
茶屋集落の家屋では、構造的な強弱で被害差が生じていた。木造で躯体がばらばらになっていたのは、石場建てや耐力壁の少ない古い住宅だ。非木造では、細い鉄骨材が曲がったり、地盤に固定されていない独立柱がコンクリートの基礎ごと流されたりしていた〔写真2〕。一方、柱脚と耐力壁が緊結されたピロティ形式の木造住宅などでは、構造に大きな損傷は見られなかった。
茶屋集落より少し上流側で支流が合流する付近では、古い木造倉庫が形を保ちながら水平に90度回転して移動していた〔写真3〕。貫や足固めで躯体が崩壊するのは防いだが、石場建ての基礎が滑ったと思われる。現地を目視調査した田村和夫・建築都市耐震研究所代表は「合流部で本流が逆流した影響を受けて建物が回転した可能性がある」と話す。